第48話 依頼処理

商店街の様子を見に行った翌日、僕は城の応接室で冒険者ギルドのマスターであるバルドンさんと話をしていた。


前にバルドンさんから、遣いを寄越してくれれば城に出向くようなことを聞いていたので、城まで足を運んでもらった。


「今日お呼びしたのは前に言っていた冒険者不足についてです。変化はありますか?」


「いや、ないな」


「そうですよね。今溜まっている依頼というのはどういうものがありますか?」


「採取依頼が多いな。それから街の雑務だ」


「採取ですか?討伐依頼ではなく……」


「そうだ。この街を離れた冒険者は高ランクばかりだ。あいつらは金も実績もある。残ったのはDランクくらいまでがほとんどだ」


「だから、魔物討伐の依頼が残ると思ったんですけど……」


「高ランクの冒険者じゃないと討伐出来ない魔物はほとんど依頼にない。討伐してきたら素材を買い取っているだけだ。依頼が出るとしたら、街や村の近くに住み着いた時か、特定の素材が欲しい時くらいだな。その時は残ってくれたBランク冒険者に任せるか、俺が行くしかない」

そもそも、魔物討伐の依頼自体が少ないようだ。

だから滞ることもないと……


「この街にいる冒険者で1番高いランクの人はBランクなんですか?AとかSの冒険者は皆離れてしまったんですか?」


「元々Aランクの冒険者はこの街にはいない。Sランクなど尚更だ。この街にいても力を持て余すだけだ」


「そうでしたか。Sランクの人がどの程度なのか見てみたかっただけです。話を逸らしてしまいましたが、採取と街の雑務の依頼が滞っている理由はなんですか?」


「採取依頼は薬などの材料になるから、依頼が途切れることはほとんどない。しかも、採取する場所に新人では危険な魔物や動物が住み着いていると、その依頼を受けない。危険だからギルドとしても止める。本来なら高ランクの冒険者が魔物と戦いながら採取してくるんだ。街の雑務が滞っている理由は簡単だ。他の依頼の報酬がいいからだ。わざわざ雑務をする者は少ない。雑務に高報酬を出したりしないからな」


「雑務というのはどういったものがあるんですか?」


「色々とあるが、多いのは力仕事だな。家を建てたり、掃除をしたり、馬車の積み下ろしだったりと理由は様々だが、人手が足りない時に頼みに来る。後は他の街や村への運搬だ」


「雑務の依頼は他の依頼の報酬が元に戻れば受ける人もいるわけですね?」


「そうだな。通常なら、危険の少ない討伐依頼や薬草などの簡単な採取依頼は報酬が少ない。街で力仕事をしていた方が稼げる。だが、それが今は逆転している。元に戻れば雑務の依頼を受ける者もいるだろう。低ランクの冒険者はあまり減っていないからな」


「では、まずは報酬の相場を戻しましょう。報酬の相場が上がることは冒険者にはいいことですが、今までの額では受けてくれないというのは依頼を出す側としてはマイナスでしかありません」


「それはそうだが、どうするんだ?」


「滞っている依頼をこちらに回してください。依頼料が以前と同じでも受けてもらえるようになれば、高騰している報酬も直に元に戻るでしょう」


「誰が受けるんだ?王自らが受けるわけではないだろう?」


「兵士の方達に訓練という名目でやってもらいます。それから国で雇っている元冒険者の方にもやってもらいます。無理矢理やらせるつもりはありませんが、国に雇われている以上はやってもらいます」


「それは反感を買わないか?」


「買うかもしれませんが、嫌なら他の方法で稼いでもらうしかありません。やろうとしても本当に出来ない人は別ですが、やらない人の面倒まで見る気はないです。それに、今は城の内装を作っているから人を大量に雇っているだけです。今まで冒険者をやっていた人は、力仕事が無くなった時に雇われ続けることが出来るでしょうか?」


「……その通りだな。ギルドとしては助かるばかりだから頼ませてもらう」


「では後日、滞っている依頼を持ってきてください。ただし依頼主には冒険者ではなく国に頼んだ事を説明した上で、それでも構わないというのであればです。それから、なんでも受けるわけではありません。慈善事業ではないので、正当な報酬は頂きます。明らかに安い依頼は持ってこないでください。依頼料を安くしても国が受けてくれるんだろ?とナメられるわけにはいきません」

これで国としての、ここで暮らす人のことを考えているよという宣伝にもなるはずだ。


「承知した。とりあえず3日後に持ってくるがいいか?」


「大丈夫です。達成した依頼に関してはギルドまで報告に行かせます。報酬に関しては本人にではなく、城までまとめて持ってきてください。月の末日でお願いします」


「達成した本人に渡さないのか?」


「国に雇われているのですから、当然別で給金が払われています。頑張っていれば給金を増やしたりはするかもしれませんが、得た報酬は国のものです」


「それだと不満が溜まらないか?」


「不満があるなら国仕えをやめて冒険者になればいいんです。国に仕えていれば、依頼がなくても定額で給金が支払われます。悪くはない額をもらえるはずですが、依頼を多くこなしていれば、損をする期間も当然あります。安定した収入を得るか、それとも浮き沈みのある収入を得るか、それはその人の選択です」


「国としてそれでいいのか?」


「国仕えを辞めて冒険者になるなら、この国の冒険者が増えるということです。結果として国の繁栄に繋がりますから、どちらに転んでも国としてのメリットはあります。冒険者ギルドが国に属していないといっても、有事の際には協力を頼むことになるでしょう。近隣の魔物や盗賊を退治してくれるのも冒険者の方達です。頼りにしてます」


「そう言ってくれるとギルドとして、この国に拠点を置くのは間違っていないと判断出来るな。ギルドが困っていても助ける義理はない、無関係だと言う領主も実際にいるからな」


「それをやると、街や村が魔物に襲われたりして困っている時に見捨てられますからね。出会した時に同じ国に住む人だから助けてあげようと思ってもらえるようにしたいです。持ちつ持たれつでこれからよろしくお願いします」


「ああ、よろしく頼む」


そして3日後、バルドンさんが依頼を持ってきた。

僕はそれを持って兵士長のところへと行く。


「前に話した冒険者ギルドの依頼書が届いたから、兵士長の方でメンバーを選定して期日までに達成するように」


「はっ!」

僕は依頼書を兵士長に渡す。


「断る人がいたら無理矢理やらせなくてもいいけど、理由を聞いておいて」


「承知しました!」


「手を抜いていいとは言わないけど、無理はしないように。危険だと思ったら依頼のことはひとまず忘れて逃げていいから」


「ありがたきお言葉ありがとうございます。陛下の期待に答えてみせます」


「それから、この3つはこの街から少し離れるから、近くの村の様子も見てきてくれる?何か困っていることがないか聞いてきて。その場で出来ることならやってきてね」


「承知しました」


「あと冒険者ギルドの依頼とは別だけど、他の街にも行ってきてくれる?そこをルマンダさんの代わりに治めているいる人がいるはずだから、時間がある時に城まで来るように言ってきて。断られはしないと思うけど、もし断られるようだったら、理由だけ聞いて無理に連れてこなくていいから」


「承知しました」


「それじゃあよろしくね」


「はっ!」


とりあえずしばらくの間はこれで誤魔化せるだろう。


いつまでも兵士達に冒険者の仕事をやらせるわけにはいかないから、早く冒険者が増えるようにしないといけないな。

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