第29話 これから

ルマンダ侯爵改め、ルマンダさんの屋敷に移動して話をする。


話の内容は、今回僕がこのような凶行に出た事についての説明と今後についてだ。


今いる部屋には僕達の他にはルマンダさんしかいない。


話した内容に関しては他言無用ということで話を進めている。


「まさか、それほどの力が勇者様方にあるとは思ってもいませんでした。あのまま王都を攻めていたら私の兵は全滅していたでしょう」

僕があの時に呼ばれ、追放された者だということをバラし、異常なスキルを使える事も教える。


それから、僕が異常なスキルを使えるということは、城にいるはずのクラスメイトも同じように特殊なスキルが使えるだろうということも話す。


「そういうわけで、クラスメイトが殺されるのも、クラスメイトが誰かを殺すのも嫌だった僕の指示に従って、フェレスさんが動いてくれました。ルマンダさんには悪いことをしたとは思っていますが、国王側の戦力が未知数な為、ルマンダさん側を攻めるしかありませんでした」


「事情は理解した。やり方はどうかと思うが、結果として私の兵の命を無駄に捨てずに済んだことには礼を言う。やり方はどうかと思うがな」

ルマンダさんは二度言った。

やり方を考えたのはフェレスさんなので、僕に言わないで欲しい。


「僕が追放された後の事を聞いてもいいですか?」


「私はマオ様が深淵の樹海へと飛ばされていたことは知らなかった。知らなかったとはいえ、王国貴族の一人として酷いことをしてしまったことをまずは謝らせてほしい。私は、勇者様方を召喚するからという理由で城に行っていたわけだが、急に宝物庫の中身をはじめ、色々な物が城から無くなり、城の中はパニックになった。たまたま宝物庫の近くにいた私の息子であるルマドが愚王に報告した所、爵位を剥奪された。それに腹を立てた私は爵位を返上すると言って、反乱することにした。すまないが、私の身の回りで起きたことしかわからない。ただ、マオ様の言う通り、勇者様方は隷属されていると思われます」

クラスのみんなのことで新しい情報は得られなかったけど、ルマンダさんが反旗を翻した理由はわかった。


そして予想していた通り、僕の収納に入っていた物には、宝物庫の中身が含まれていたようだ。


「そうですか……」


「それでは、今後の話をしましょう」

フェレスさんが話を進める。

多分早く終わらせて研究に戻りたいのだと思う。


「城を建てるのですよね?」

ルマンダさんが確認する。


「そうだ。まずは小さいもので構わない。王であるマオ様の拠点を作る必要がある」


「え、僕って王なの?」

初耳だ。


「ルマンダ侯爵が王国から離反した以上、どこかの所属に入るべきだ。しかし、ここは帝国領と隣接しているわけでもなく、今回の行動に帝国は関与していない。ですから、マオ様がこの地の王となるべきです。そして、王が誰かということはちゃんと明確にする必要がある。その為の城です。ただ、マオ様が生きていると王国の者に知られるのは危険です。失礼ですが、頭文字だけ使わせてもらい“マ”王と名乗ってもらいます」


「そ、そうなんだね。マ王って、なんだか厳つい気がするけど……。それに名前が一文字ってどうなの?」

そうらしい。どうせ名ばかりの王だからそれはいいけど、マ王ってなんだか魔王みたいで嫌だなぁ。


「マ王というのは何故厳ついのですか?それから名前が一文字の方は多くはありませんがいます。魔族に特に多いです」


「そんな気がしただけだよ。それならそれでいいよ」

この世界に魔王はいないのなら、気にする必要はないか。


「そうですか。話を戻します。今の屋敷に不満があるわけではないが、王が住む家としては不足している。私が城の外観はすぐに魔法で作るので、ルマンダ殿は内装を頼む。資金に関してはマオ様に出してもらいたいがいいか?」


「城を作るのに足りるの?」

驚く程にお金を持っている(ギルドに預けている)のはわかっているけど、城を作るのにどれだけ掛かるのかはわからない。


「問題ない」


「なら頼むね。王国で使うなら、ギルマスから王国の貨幣のまま受け取ってくるよ」

帝国の貨幣に代えてもらう為に預けているけど、ここで使うなら王国の貨幣の方が使いやすいだろう。


「では早速取り掛かるから、マオ様は屋敷に戻って引っ越しの準備をしてきてくれ」


「わかったよ……馬車は誰が動かせば?」

ずっと馬車はフェレスさんが御者を務めていた。

返事をしたはいいけど、動かせる人がいない。

僕には無理だし、オボロやシロにも無理だろう。


「オボロ殿が馬車を動かせる」

フェレスさんが驚くことを言った。

僕は二つの意味で驚く。


「なんでフェレスさんがそんなこと知っているんですか?僕も知らないのに」

僕が通訳していないことをフェレスさんが知っているのはおかしい。


「言ってなかったな。オボロ殿の言葉がある程度分かるようになった。言語学習というスキルがあって、色んな部族や古代語の習得が早まるスキルなんだが、オボロ殿の鳴き声をマオ様に翻訳してもらって当てはめたことで、大体理解出来るようになった。それから、オボロ殿は以前から人の言葉を理解していた。だから完全ではないが、オボロ殿と会話が可能だ」


「人の言葉がわかるの?」

僕はオボロに聞く。


「話すことは出来ぬが、理解するのは簡単じゃ」

知らなかった。


「もしかしてユメやシンクの言葉もわかるの?」


「ワンワン、にゃーにゃー鳴かれても理解出来ないのじゃ。妾には感情を読み取るので精一杯じゃ」

分かるのは人の言葉だけらしい。


前にテレビで、ペットは主人の言うことを理解しているけど、人の言葉で発生する為の声帯がないから会話が出来ないみたいなことを言っていた気がする。


ずっとフェレスさんとオボロの連携が取れているなと思ってはいたけど、話が通じていたとは驚きだ。


「それじゃあ、馬車の操縦はオボロに任せるね」


「任せるのじゃ」


僕はフェレスさんを残して、オボロが御者を務める馬車でハラルドにある屋敷へと帰る。


途中、すれ違う人に狐が馬車を引いていると驚かれたので、オボロには人の姿に化けてもらい、しばらく馬車に揺られ、屋敷に帰ってきた。


「ただいま」

久しぶりに帰ってきた我が家。

シンク達が出迎えてくれる。

少しの間しかこの屋敷に住んでいなかったけど、懐かしく感じる。


……いや、そんなことはないな。

感傷に浸る程住んでないや。


久しぶりにシンク達に会えたことが嬉しくて、懐かしく感じたんだな。


「マオ様、おかえりなさい。急にシンクちゃんが走り出したので何事かと思いました」

シトリーが走って来て、出迎えてくれる。


「シトリーとコロネさんに話があるんだ。コロネさんを呼んできてくれるかな?」


「わかりました」


シンク達は僕について来てくれるだろうけど、シトリーとコロネさんはどうだろうか……。

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