第21話 能力測定

以前とは比べ物にならない程に身体能力の増した僕は、どのくらい自分の能力が上がったのか確認したくなった。


確認する相手はフェレスさんに頼み、庭に出る。


まずは力比べをする。


お互い立った状態で向き合い、手を合わせて押し合う。

僕は一瞬で押されて倒された。


力は圧倒的にフェレスさんの方が高いようだ。


次に俊敏さを比べる。

大体100mくらいの距離を二人で競走する。


僕は大体8秒くらいだったのに対して、フェレスさんは2秒くらいだった。

僕がスタートして走り始めた頃には遥か先にいた。


この辺りから既に僕に思うところはあったけど、続けることにする。


次は頑丈さを比べる為に、まずは僕が自分で少し痛いなと思うくらいまで力を少しずつ入れて自分で自分を叩く。


その力でフェレスさんを叩いた結果、全く痛くないと言われた。

僕よりもフェレスさんの方が頑丈だということがわかったけど、どの程度なのか確認する為にさらに力を入れて叩いていく。

結果、僕が全力で叩いてもフェレスさんは全く痛くないらしい。

もちろん神経がイカれているとかではなく、ちゃんと叩かれたという感触はあるようだ。


魔力に関しては比べる必要もなく、フェレスさんの方が圧倒定的に多いのはわかっているけど、一応比べる。

比べ方は着火のスキルでどの程度の大きさの火が作れるかにした。

僕が使える魔法が着火と給水だけだからだ。


着火のスキルを使うとマッチくらいの火がつき、魔力を込めていくと、ターボライターのように火の勢いが強くなった。


着火のスキルは小さい火を作る魔法なので、これでも十分異常ではあるけど、フェレスさんの方では火炎放射器のような火が指先から噴き出していた。


残りは生命力だけど、比べる方法がないので諦める。


終わってみて冷静に現実と向き合う。

おかしい。普通は異世界から召喚された僕の方が化け物のような力を得るのではないのだろうか?


フェレスさんは僕の知っている、人の域を超えた存在になっている気がする。

しかし、僕は人の域からは出ていないような気がする。


ただ、僕の知っている人というのは元の世界の人のことだ。

フェレスさんはA級冒険者を凌駕すると言っていたけど、その上のS級冒険者をとは言わなかった。

ということは、今のフェレスさんと同じくらいか、強い人がこの世界にはいるということだ。

そもそものポテンシャルが、僕達地球人よりもこちらの世界の人の方が遥かに高いのかもしれない。


僕のチートは盗むのスキルに集約されているので、他のクラスメイトは違うのかもしれないけど……。


「フェレスさん、ありがとうございました」


「私も自分の確認が出来てよかった。マオ様はこれから忙しいだろうか?」


「予定は入ってないよ」


「では、以前にお話ししたそちらのコートを調べさせてもらってもいいか?」


「いいですよ」

やり方はどうかと思ったけど、僕の望む結果をこの短時間で出したのは間違いない。

フェレスさんは僕の力になることを証明すると言って、すぐにそれを証明してみせた。

なら僕はそれに応えないといけない。


それに、フェレスさんは確かに変人ではあるけど、それは研究にのめり込み過ぎているだけだ。

信頼関係とは少し違うけど、研究を出来る環境を提供し続けていれば、僕を敵に回すようなことはしなさそうだ。


僕はフェレスさんと離れの研究室に戻り、フェレスさんの研究に付き合う。


「やはり、このコートからはとてつもないエネルギーを感じる。闇の魔力に似ている気がするが、本質は違うようだな」

フェレスさんは僕に纏わりついている邪気を触りながら言う。


「フェレスさんは研究を続けて、魔法の深淵を覗くことが叶って理解出来たとしたら、その後どうするんですか?そもそも、なんでそんなに深淵を覗きたいんですか?」

僕ば気になったことを聞く。


「深淵を理解した後か……。考えたことはなかったな。私が深淵を覗きたい理由はただの知識欲だ。魔法は奥が深い。初めはただ魔法が好きなだけだったが、どうやったらもっとすごい魔法を使えるのか、どうやったらもっと効率よく魔法を使うことが出来るのか、どうやったらもっと早く魔法を発動させることが出来るのか、そういったことを考えているうちに、うまく魔法を使うことよりも、魔法のことを知ることの方に重きを置くことになった。ただそれだけだ。そう考えると、私は深淵を理解してはいけないのかもしれない。本当に理解してしまったら、私は生きる意味を失ってしまうだろう」

軽い気持ちで聞いたけど、なんだか深いことが返ってきた。

ただ、そう話すフェレスさんの顔は無邪気に笑う子供のようだ。

本当に魔法の研究が好きなんだなと改めて思う。


「フェレスさんにお話しすることがあります。このコートについてもですが、僕自身のことです。聞いてしまったら面倒事に巻き込むことになるかもしれません。それでも聞きたければお話しします。魔法についてさらに理解を深めるきっかけになるかもしれないことです」

僕はフェレスさんに僕の秘密の全てを話すつもりでいる。

元々、博識そうなフェレスさんには色々と相談に乗ってもらうつもりでいた。


クラスメイトをどうやって助けたらいいのかなども聞きたかった。

なのでいつかは僕が異世界から来たことを含めて全て話すつもりではいたけど、もう話してしまってもいいかと思った。


「……私は生涯を魔法の研究に捧げると決めている。マオ様がどの程度の面倒を抱えているのかは知らないが、それで研究が進む可能性があるのなら聞かせていただきたい」


「わかった。今から話すことは他言無用で頼むよ。まず僕はこの世界の住人ではないんだ。他の世界から王国によって召喚された異世界人なんだよ。僕の住んでいた世界には魔法なんてものは存在していなかった。もしかしたらあったのかもしれないけど、それは空想上のものだと考えられているんだ。でも僕は今魔法を使うことが出来る。もしかしたらその辺りに何かヒントがあるかもしれない」


「王国が禁忌を犯したという噂は聞いていた。マオ様がそうだとは知らなかったが、確かに魔法の存在しない世界のことを知るのは、魔法を知るヒントになるかもしれない。そちらの世界に無くて、こちらの世界にあるもの。それが分かれば魔法の深淵に一歩近づけるかもしれない」


フェレスさんに僕が異世界人であることを教えた後、召喚されたのが僕だけではなく他にもいること、王国で何があって樹海に飛ばされ、どうやって樹海から抜け出しこの街に来たのか、一緒に召喚された人達を助けたいから相談に乗って欲しいということを説明する。


「なるほど。私に出来ることであれば力になると約束しよう。その代わり、マオ様には元いた世界のことなどを色々と聞かせてもらい」


「それはもちろんだよ。そのつもりで話をしたんだから。それからフェレスさんが気になっているこのコートの事も説明するよ」


「教えてもらえるのですね」


「うん。まずこれは邪気ってものらしいんだ。さっき話した盗むってスキルで、漆黒の色をした邪龍から盗んだから僕が持っている。ギルマスは漆黒のドラゴンに会ったって言ったらカタストロフィ・ドラゴンかもしれないと言ってました」


「邪気……。聞いたことはないな。私も漆黒のドラゴンと聞いて思い浮かべるのはカタストロフィ・ドラゴンだが、神話の時代に生み出されたドラゴンで、姿を表した時、世界は終焉を迎えるとの言い伝えがあると聞いたことがあるだけで、実在しているのかさえ不明だ。樹海の奥は人が立ち入ることの出来ない領域だ。私が知らないだけで、他のドラゴンだった可能性も十分ある」


「もう一つフェレスさんに秘密にしていることがありまして、実は僕は魔物と話が出来るんです。全ての魔物とではありませんが、ユメとシンクとオボロとは話が出来ます。その邪龍と対峙した時にシンクに教えてもらったんですけど、邪龍には全ての攻撃を防ぐ邪神の加護があると言っていました。クロの呪いも効かなかった邪龍が、この邪気を盗んだら逃げていったことを考えると、この邪気というのがシンクのいう邪神の加護だと思います」


「……流石に信じがたい話ではあるが、マオ様が嘘を言っているようには見えない。わざわざ嘘を言う必要もないから本当のことなのだろう」


「それで、この邪気とは話が少し離れるけど、フェレスさんが魔法の研究をしているって聞いて、オボロに話を聞いたら面白いことを教えてくれたんだ。魔法を使っているのは人間だけなんだって。あ、人間っていうのは魔族や獣人も含んでるよ」


「バカな!それはあり得ない。現に魔法を使う魔物だっているじゃないか!?そこのシンクと呼んでいるフレアウルフだって体を魔法で燃やしているだろう?」

僕が異世界から来たと言った時も冷静だったフェレスさんが、初めて驚きを見せる。


「オボロが言うには魔素っていうエネルギーに術式を介することで、人間は魔法を発動しているんだって。でも魔物は術式を必要としないらしいんだ。体の中に魔素を変換する器官があるみたいだよ。その器官が術式の代わりをしているんだって。僕としては違いがよくわからないから、両方魔法なんじゃないの?って思うんだけど、フェレスさんには面白い話だったんじゃないかな。それから、オボロが言うには、魔物は魔法を使わないだけで、使えないわけではないらしいよ。器官で変換するよりも術式を使ったほうが魔素の変換効率が悪いんだって」

異世界の話もそうだけど、フェレスさんの研究のヒントになると思ったのはこっちの話だ。

異世界の話は今後相談に乗ってもらうのに知っておいてほしかったという面の方が大きい。


「……空いた口が塞がらないな。そもそも魔法を発動している時に術式というものを使っていることさえ知らなかった。スキルに任せきりになってしまっていたからだな。はっはっは!これだから魔法は奥が深い。聞かせてくれてありがとう。これから忙しくなるな」

フェレスさんは反省した素振りを見せた後、笑い、満足気な顔をする。


「忙しくなるところ悪いんだけど、球の調査が終わったから次の仕事を頼みたいんだ」


「それはもちろんやらせてもらう。そういう契約だからな。それで何をすればいい?」


「スキル球を使うと何のスキルが使えるようになるのか調べて欲しいです。とりあえず10個渡すのでお願いします。必要なら何個か使ってしまっても問題ないです」

僕は収納からスキル球を10個取り出してフェレスさんに渡す。


「難題ではあるが、任せてくれ」


フェレスさんならスキル球についても詳しく調べてくれそうだ。

何のスキルが使えるのかわかれば、必要に応じて僕以外の人に使ってもらうことも出来るから、フェレスさんに期待しよう。

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