第22話 一方、王国では③

委員長視点


竹原君が石川君は運が良いから生きていると言った。

二人は仲がいいから、生きていて欲しいという願望から言っているのでは無く、本気でそう思っているようだ。


「委員長に急にそんなことを言っても信じられないだろうから、委員長にいくつか真央の豪運エピソードを教えるよ。真央は自分が豪運だなんて思ってないみたいだけどな」

私が疑っていると竹原君が石川君がどれだけ運がいいのか教えてくれるという。


「教えてもらえる?私も石川君には生きていて欲しいから、希望を持てる話を聞かせてくれるなら聞きたいわ」


「いくつかあるんだが、委員長が信じてくれそうな話だと……宝くじの話かな」


「石川君は1等に当選したことがあるっていうの?」

それなら確かに運がいい。

それだけで今回の事も大丈夫だと言える程ではないけど、豪運ではある。


「いや、違う。それも豪運だとは思うが、それなら俺も偶然その時に真央の運が良かったと思うだけだ。俺と真央は小学1年の時からの付き合いなんだが、真央と遊んでいる時に子猫を拾ったんだ。捨て猫だな。真央は動物が好きなんだが、住んでるアパートがペット禁止で飼えないんだ。だから俺達で飼い主を探すことにした。そうはいってもすぐに見つかることはなくて、お腹を空かせて弱っているようだったからスーパーに子猫用のご飯を買いに行ったんだ。ただ、2人合わせて200円ちょっとしかなくて満足に買うには全然足りなかった。どうしようか悩んでいる時に宝くじの店を見つけて、スクラッチクジを買ったんだ。今思えば当たる可能性なんてほとんどないのにバカなことしてるなとは思うけど、その時はそれしかないって思ったんだよ。結果千円当たったんだ。その千円でご飯を買って、簡素だけど寝床を作って秘密基地で飼いながら飼ってくれる人を見つけたって話だ」

竹原君は自慢気に言うけど、ただ運が良かったという話ではないだろうか。

もちろん運はいいと思うけど……。


「運はいいと思うけど、そこまでの話には聞こえなかったわ」

私は正直な感想を竹原君に伝える。


「もちろんこれだけじゃない。同じような事が俺の知っているだけで4回ある。真央が本気でお金が欲しいと思っている時は必ず当たっている。その時に必要な分だけな」


「それは……確かに異常ね」


「他にもあるからな。捨て犬の飼い主を探している時に、財布を拾って交番に届けたら、ちょうど持ち主が現れてお礼として犬のご飯を買ってくれたとか、冬に川に流されている犬を助けようと真央が川に飛び込んで凍えていたら、ちょうど通りがかった車が止まって、近くだからと風呂を貸してくれたとかな。ありすぎて俺も全部は覚えてないくらいだ」


「……それが本当なら竹原君が石川君のことを豪運だから生きていると言うのも理解は出来るわ。ただ、そもそも捨て猫や捨て犬にそんなに頻繁に出会うものなの?……。ましてや川に流されてる犬なんて」

宝くじに当たったとか、お金を拾ったというのもそうだけど、そっちの方が私は気になった。

犬や猫が捨てられているというのは知っているけど、私は実際に見た事がない。

野良になった後の猫や犬は見かけるけど……。


「なんていうかな……。動物と真央が惹かれあっているのか、真央が歩いていると動物と出会うんだよ。捨て猫とかに限らずな。俺はあいつの体に動物を感知するセンサーでも埋め込まれているんじゃないかと勝手に思っているよ」

竹原君は笑いながら言った。


「竹原君の話を疑っているわけではないけど、すぐに信じる事は出来ないわね。竹原君はこれからどうするか考えはある?多分だけど、自由に動けるのは宮本さんと橋本さんを含めて4人だけよ」


「俺は隙を見てこの国を出ようと思っている。どうやるかはまだ思いついていないけど、委員長と違って俺がいなくなってもそこまでこの国は慌てないだろう。俺はどこかで真央が生きていると信じているから、探すことにするよ」


「それなら橋本さんと宮本さんも連れて行ってくれないかしら?竹原くんの言う通り私がいなくなると騒ぎが大きくなりそうだから、3人で逃げて欲しい。なんでか知らないけど城の中がバタバタしているから、今がチャンスだと思うのよ。私が目立つように囮になるからその内に逃げて」


「委員長はそれでいいのか?」


「城に残る人も心配だからね。それに私も逃げたら本気の追っ手が掛かりそう」


「悪いな。必ず助けに戻るから」


私は竹原君の部屋を出た後、騒ぎを起こす為、廊下にいた兵士に話しかける。


「聞きたいことがあるのだけれど」


「何でしょうか?」


「さっきから城の中が騒がしいじゃない?何があったか教えてくれないかしら?」

どうせ教えてくれないだろうけど、返答によって何か言いがかりをつけよう。


「勇者様達には関係のないことです。明日も早いのでお部屋にお戻りください」


「これだけうるさいと寝れないのよ!ただでさえ急にこんなところに連れてこられているっていうのに、周りでドタバタとされて、どうやって寝ればいいのよ!明日早いのはわかっているわよ。そっちの勝手な理由で訓練させられるんでしょう?だから寝ようとしているのにバタバタ、バタバタとうるさいのよ。せめて理由を聞いて自分を納得させようと思って聞いてみたら、関係ないから部屋に戻れですって!?ふざけるのもいい加減にしてよ!」

私は大声で兵士に食ってかかる。


私が大声で叫んだことで、近くにいた兵士や使用人が集まってくる。

さらにクラスメイトも部屋からなんだなんだ?と出てくる。


いい感じに注目を浴びている。


「委員長、何を騒いでいるんだ?」

龍崎君に聞かれる。


「城の中がバタバタしているから何があったのか聞いたのよ。そしたら私達には関係ないから部屋に戻れって言うのよ。ひどくない?よくわからない世界に連れてこられて、ただでさえ不安で眠れないのに、こんなにバタバタされたら尚更寝られないわ。それなのに明日から訓練で早いから部屋に戻れって言うのよ。どんな訓練するか知らないけど、寝不足で訓練して怪我でもしたらどうするのよ!?あまりにも他人事のようなことを言われたから腹を立ててるの。みんなもそう思うよね?ね?」

私は騒ぎを大きくする為にみんなを巻き込むことにする。


「そーだ。そーだ。いい加減にしろ!」

龍崎君に目配せした事もあり、騒ぎはさらに大きくなっていく。


「何を騒いでいる!」

しばらく騒いだ後、宰相が現れた。


「勇者様方の不満が爆発したようです。初めは城の中が騒がしくて眠れないというものでしたが……」

初めに私が言いがかりを付けた兵士が宰相に報告する。


「今はそれどころではない。……大人しく部屋に戻れ!」

宰相がどこからか黒い球を取り出してから、私達に部屋に戻るように命令した。


そしたら、さっきまで私に合わせて騒いでくれていたみんなが急に静かになり、自分の部屋へと戻っていった。


なるほど、あの指輪にはやはり洗脳の効果があったらしい。

浄化していたおかげで私には効かなかったけど、それがバレるわけにはいかないので従っているフリをして部屋に戻る。


大分時間は稼いだはずだ。3人はうまいこと逃げ出せただろうか……。


翌日、私達は城の中庭に集められた。

そこには竹原君達の姿はない。


まだ城の中はざわついており、私達の人数が減っていることには気づいていないようで、何事もなかったかのように訓練が始まる。


中庭に集められた理由はここにダンジョンへの入り口があるからだそうだ。


ダンジョンの中には、外にいるものとは違う魔物がいるらしい。

なんでも、倒すと消えるそうだ。


強くなるには魔物と戦ってレベルを上げるのが1番早いという理由と、戦いに慣れさせる為という理由でいきなりダンジョンの中に入らされる。


ダンジョンに数人の兵士と一緒に入り、魔物との戦いをさせられる。

今は洗脳されていないようで、戦いを嫌がっている人は放置されている。


昨日、宰相がみんなを無理矢理動かしたのは見たけど、訓練に同行している兵士には出来ないのかもしれない。


もっとちゃんとした訓練を予想していたけど、あまりの適当さに本当に私達を鍛える気があるのかと疑いたくなる。


そもそも魔族と戦わせるというのが嘘なのか、それとも私達に構っていられない程に城で何かが起きているのか……。


結果として今日の訓練はグダグダのまま終わった。

私を含め、これからのことを考えてレベルを上げておくべきだと思った数人が魔物と与えられた武器で戦っていただけで、残りの人は端の方で隠れて見ていただけだった。


何のために私達は呼ばれたのだろうか……。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る