第13話 一方、王国では②

委員長視点


突然異世界に連れてこられて、魔族と戦えと言われた。

私は聖女らしいが、あの国王の横にいる男……おそらく宰相とかだろうが、あの男の言うことはどうにも胡散臭い。


この国に実際に魔族の脅威が迫っているとしても、この国の方に原因があるのではないかと感じる。


私がこの国を怪しんでいる内に、石川君が処刑されるという話になってしまった。


私の中のこの国に対する不信感がさらに増す。

間違いないと思えるくらいに……。


そもそも、自国が危機だという理由で私達を呼んだのに、あの上からの態度はありえない。

困っていて、異世界から無関係な人を頼るしか道がなかったという風にはとても思えない。


あれは自己の利益の為に私達を利用しようとしている人の目だ。


石川君が処刑ではなく、追放だという話に変わる。


竹原君(明人)が抗議した結果、宰相は竹原君もついていけばいいと言う。

他にも行きたい人がいれば行けばいいと。


この国からは出た方がいいと判断して私も行くと言ったら、聖女を死なせるわけにはいかないと断られた。


追放先で死ぬと確信があるようだ。

それがわかってしまった私は、宰相の言葉を無視してついて行くことが出来なかった。


石川君も気づいたようで、竹原君が一緒に行くことを拒否して1人で行くことになってしまった。


石川君が私にお礼を言う。

私はこの国から出るべきだと思ってついて行くと言っただけだ。

もちろん心配していなかったわけではないけど、心が痛む。

どういった状況だったとしても、見捨てたということにかわりはないのだから……。


そして石川君が無理矢理転移陣に乗せられて行ってしまった。


石川君が消える寸前に国王の衣服が消えた。

よく見ると服だけではなく、王冠なども全て消えている。


石川君のスキルは盗むだと言っていたし、殺される前に一矢報いたようだ。


ざまあみろと思いはしたけど、心の痛みが消えることはなかった。


国王が笑われながら出ていき、残された宰相が話を始める。


「それでは勇者様方には明日から魔族と戦う為の訓練に入ってもらいます。本日はお疲れと思いますので、ゆっくりとお休み下さい。部屋を用意してあります。それからこちらをお配りします」

宰相の指示で指輪が配られる。


「そちらの指輪には防護の魔法が込められています。訓練で魔物と戦ってレベルを上げていただく事になります。その際に命を落とされないように身につけて下さい」

宰相にそう言われるけど、私が聖女だからか、それとも浄化というスキルが使えるからかはわからないけど、この指輪から良くないものを感じた。

まるで呪われているかのような感じだ。


皆さっきのことで、この国に対して不信感を抱いているようで、付けようとはしない。


「どうされましたか?早く付けてください。勇者様方はお強いです。しかしそれはちゃんと訓練をしてレベルも上げて鍛えた場合です。今の勇者様方では魔族どころかそこらにいる魔物にも殺されてしまうかもしれません。もちろん周りにいる兵士達にも勝てません」

言葉では身を案じているようだけど、有無を言わさず付けろと強要している。


私は使えるらしい浄化のスキルで、この呪いのようなものがなくならないか試してみる。


……悪いものが無くなった気がする。


「ちょっとそれ貸して」

私は近くにいた竹原君と宮本さんに小声で話して、2人の指輪にも当然のように呪いのようなものが掛かっている感じがしたので浄化を掛ける。


「何をしているのですか?」

私の行動を不審がられて宰相に言われる。


「私の物と他の人の物が同じものか見てただけよ。なんだか私は特別視されてるみたいだけど、他の人のは防護の魔法なんて掛かってなくて、ただの指輪だったから死んでしまったなんてことになったら嫌だから」

私は誤魔化す。


「左様ですか。皆様にお渡ししたのは全て同じ物ですよ。多少の個体差はありますがね」


「それなら私とこちらの橋本さんのを交換しても問題はないということですよね?」


「それはもちろんです」


「橋本さん、そういうことだから交換してもらってもいいかな?」

私は橋本さんと指輪を交換して浄化してから嵌める。


全員のとはいかなかったけど、これでたまたま近くにいた3人の指輪から呪いのようなものを無くすことは出来た。


あれが何かはわからないけど、現状では最善の行動だったと思う事にする。


半強制的に全員が指輪を付ける。


「何かあったらみんなに合わせて」

私は3人に伝える。さっきのが洗脳とかだったら掛かっていないのがすぐにバレてしまう。


「今度はどうされましたか?」

宰相が私に聞く。

目をつけられたかもしれない。


「何か違和感がないか聞いたのよ。こんな世界に急に連れてこられたのだから、すぐにあなた達を信用出来ないのは仕方ないでしょ?それから防護魔法というのを試したいから私を叩いてみてってお願いしてたのよ」


「それは当然のことです。信用して頂くように私共は行動で示すしかありません。それから防護魔法を見てもらうのにちょうどいいかもしれません。自身の手を痛めないように叩いてみて下さい」

石川君を殺しておいてよくそんなことを平然と言えるなと思う。


竹原君が宰相の言う通りに私を軽く叩こうとする。

そしたら、私の前に透明のバリアが張られたように途中で竹原君の手が止まった。


防護魔法というのは事実だったらしい。


「全ての攻撃から身を守れるわけではありませんが、見てもらったようにその指輪が皆様を守ってくれます。それではお食事を用意しております。その後、部屋に案内させます。勇者様方をお連れしなさい」

宰相が使用人に指示を出す。


「龍崎君、ちょっと指輪見せてくれない?」

私は食事が用意されているというところに向かっている最中に、龍崎君に話しかける。


「ああ」

龍崎君の指輪からも悪いものが感じ取れたが、浄化しようとしても無くならなかった。


その後、他の人のも頼んだけど結果は同じだった。


一度嵌めてしまったら、私の力では浄化出来ないようだ。


通された食堂には豪華な食事が用意されていた。

わざわざ呼んだのだから、毒が盛られているということはないだろう。

席も決まっていないし。


ここに向かっている時も思ったけど、なんだかずっと城の中が騒がしい。

いつものことなのかもしれないけど、悲鳴も聞こえてくるので、何か異常事態が起きていると思う。


あまり食欲はないけど、食べれる時に食べておかないといつ食べられなくなるかわからないので、無理矢理にでも胃に入れる。


食事をした後、部屋に案内される。


私は少し部屋で休んだ後、橋本さん、宮本さん、竹原君の所に行く。


指輪の件を話しておく為だ。

橋本さんと宮本さんに話した後、竹原君の部屋に行き指輪の件を話す。


「そういうことだから、何か周りに異変が起きたら、自分も周りと同じようになっているという演技をして欲しいの。例えば隷属されるようなものなのだったら、従うフリをお願い」


「ああ、わかった。俺からも委員長に話というか、聞きたいことがあったんだ。なんで真央について行くなんて言ったんだ?俺と違って委員長は真央と接点なんてほとんどないだろ?」

言いたくないことを聞かれたと思った。


「この国から出た方がいいと思ったからよ。もちろん石川君が心配ではあったけど、この国がヤバいと思ったから出るチャンスだと思ったの。このままならクラス全員この国に利用されるだろうし、それなら誰か1人でも国の外にいた方がみんなが助かる可能性もあるかもって。でも……石川君にお礼を言われて心が痛いわ。見殺しにしてしまったもの……」

正直に答える。


「委員長は真央が死んだと思ってるんだな。俺は生きてると思ってるよ。真央は驚く程に豪運だからな。真央が拒否したから行かなかったが、真央について行った方が今より安全だと思えるほどには、あいつは運がいい」


竹原君は何を言ってるのだろうか……。


確かに死んだと確定したわけではないけど、死ぬのが分かっているようなところに転移させられたのに、一緒に行った方が安全だなんて……。

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