第6話 告白する

「ギルマス、慌てた様子でしたけどどうかしたんですか?」

隣の受付のお姉さんがギルマスに聞く。


「なんでもない」

ギルマスが答えるけど、なんでもない人の様子ではなかった。


「次はシンクだよ」

僕は気にせずに登録の為に魔道具を触ってもらう作業を再開する。


「わかったワン」


シンクが魔道具に触れる。


バンッ!


ギルマスが急に机を叩いた。


「だ、大丈夫ですか?」

隣のお姉さんが聞く。


「大丈夫だ。なんでもない」

明らかに大丈夫では無さそうだけど……。

シンクもランクの高い種族だったんだろうなぁと勝手に予想する。


「つ、続けてもいいですか?」

僕は確認する。


「ああ、全部見せてくれ」


「わかりました……。オボロの番だよ」


「妾の番じゃな」

オボロが魔道具に触る。


ギルマスは顔をピクピクとさせている。

オボロも普通じゃない種族のようだ。


「シロ、おいで」


シロが魔道具の上に乗る。


ギルマスは何かを諦めたような顔をしている。


ここまでくると流石にヤバいことになってると僕でもわかる。


「最後はクロの番だよ」


クロが魔道具の上に乗る。


「ひ、ひぃぃぃぃ」


ギルマスが悲鳴を上げながら腰を抜かす。


「ギルマス!ギルマス、大丈夫ですか?誰か手伝って」


ギルマスがお姉さん達に運ばれていってしまった。


「君!何したの?」

隣の受付にいたお姉さんが僕の前に立って詰め寄ってくる。


「ギルマスに言われた通りに仲間を魔道具に触らせただけです。僕はどうしたらいいですか?」


「……とりあえず、ギルマスが落ち着くまで待っててくれる?」


「わかりました」

僕は応接室のような所に通される。


「取り乱してすまなかった。詳しく話を聞かせてもらえるか?」

しばらくしてギルマスが入ってきた。


「詳しい話もなにも、ギルマスが取り乱した理由が僕にはわかりません」


「……あの魔物達の種族はわかっているのか?」

やっぱりみんな魔物だったようだ。


「シンクがフレアウルフでオボロがアサシン・フォックス、シロがホーリー・クリアスライムでクロがカース・ダークスライムですよ。みんな可愛いですよね?」


「可愛いかどうかは置いておいて、それらのランクは知ってるか?」


「知らないです」


「はぁ。いいかよく聞けよ。そこのウルフとフォックスはBランクだ。白いスライムがAランク、黒いスライムがSランクだ」

クロのランクが1番高いのはなんとなく予想がついた。


「みんなスゴイね」

僕は素直な感想を漏らす。


「もっと褒めて欲しいワン」

「当然じゃ」


「そんな呑気に言わないでくれ。何をしたらこうも高ランクの魔物ばかりをテイム出来るんだ?」


「人攫いに逢いまして、逃げ出す時にこの子達も捕まっていたので助けました」

セブンソードの人達に話した嘘をギルマスにも話す。


「……こんな高ランクの魔物ばかりを攫える賊がどこにいる!?いたとして、なんでそんな連中が坊主みたいなガキを攫う!」

ギルマスは信じてくれなかった。


「すみません。嘘を言いました」

流石に嘘を突き通すのは無理そうだったので、早めに認めることにした。


「嘘をついていたのはまあいい。それで実際はどこでこの魔物達をテイムしたんだ?」


「樹海で……」


「今なんて言った?」


「この街から少し行った所にある樹海で仲間にしました」


「いやいやいや、深淵の樹海に入って生きて出られるはずがないだろ?それにどうやったらあそこの魔物をテイム出来るっていうんだよ」 

深淵の樹海ってところだったんだ……


「盗むってスキルが成功すると、どれを盗むか選択肢が出ますよね?」


「いや、そんな話は聞いたことがないな」

あれ……?


「3つ選択肢が出るんです。それで心を盗むとテイムしたことになって僕に懐くんです。それでクロが初めに仲間になって、樹海にいる生き物はみんなクロを見ると逃げていったのでまだ生きています。クロを見て逃げなかったのは闇のように黒いドラゴンだけでした」

僕はギルマスを無視して話を進める。


「もしかしてカタストロフィ・ドラゴンか?」


「わかりません。何か絵でもあればわかるかもしれません」

種族なんて見てもわからない。


「伝説とされる魔物だから目撃された例はない。言い伝えがあるたけだ。そもそも見たとしても生きて帰れない。坊主が生きている時点でカタストロフィ・ドラゴンではないのだろう」


「そのドラゴンのことは置いておいて、僕がこの子達を仲間にしたのはそんな感じです」


「簡単には信じられないが、信じるとして一つ疑問がある。なんで樹海に入った?樹海といっても奥に行かなければここまでの魔物は現れないだろ?」


「実は天職が盗賊だという理由で王国で追放されたんです。転移陣に無理矢理乗せられて、気づいたら樹海の中にいました」


「……もしかして最近王国が禁忌を犯したと聞いたが、坊主は異世界の勇者か?」

異世界人であることは隠さないといけないと思っていたけど、噂は既に他の国にまで広がっているようだ。


「……はい。そうです。――――――ということがありました」

僕はこの世界に来てすぐのことを説明する。


「あの国は本当に碌な事をしないな。事情はわかった。魔物のランクのこととか色々と不自然なくらい無知な理由もな。多分盗むというスキルも俺の知っている盗むというスキルとは仕様が違うのだろう。あの国には坊主みたいなのがうじゃうじゃいるわけか……」


「僕の盗むはレベル3ですけど、友達は火魔法のレベルが6だって言ってました」


「そのスキルも俺の知ってる火魔法の同レベルとかけ離れているのだろう。嫌になるな」


「それで僕は冒険者になれるんですか?」

稼いで食べないといけないので、今大事なのは登録をしてくれるかだ。

話を聞く限り、僕は面倒事の種のようだし……


「それはもちろんだ。魔物達にはこれを付けといてくれ。ギルドで登録済みの証だ」

ギルマスから模様の付いた赤色のスカーフを貰う。


「みんな並んで」

僕は順番に首にスカーフを結ぶ。


「似合ってるかにゃ?」

「似合ってるよ」


「ご主人様との絆だワン」

「信頼してるよ」


「妾には派手すぎじゃなかろうか?」

「そんなことないよ。かわいいよ」


「坊主、やっぱりそいつらと喋ってないか?」

ギルマスにまた突っ込まれる。

ほとんど話してしまったし、これも教えてもいいか。


「実は話が出来ます。クロとシロとは出来ませんけど……」


「俺はもうそんなことでは驚かないからな!」


「別に驚かそうとはしてませんよ。クロとシロは乗せてるだけですけどこれでいいですか?」

プルンとした丸っこいボディにスカーフを巻いてはみたけど、すぐに落ちてしまいそうだ。


「それは仕方ない。出来るだけ離れないようにしてくれ」


「わかりました。早速依頼を受けたいです。依頼書を持ってこればいいんですよね?」


「ああ、そうだ。ここで聞いたことは俺の心の内に仕舞っておくからくれぐれもやり過ぎるなよ」


「……わかりました」

ギルマスは色々と黙っていてくれるそうなので、迷惑が掛からないようにしないといけないな。

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