パトリツァ・コンタビリタ 十八

 数日後、またプルクラ様からのお便りがございました。

 ピンク色の可愛らしいクッションが添えられておりまして、そっと縫い目をほどいてみますと、中からエスピーア様からのお便りが入っております。プルクラ様からのお便りでは、わたくしたちの愛する教会にこのところ無作法な人たちが出入りするようになったと、少し不穏な事が書かれておりました。

 炊き出しなどの奉仕活動に参加してくださるのはよろしいけれども、炊き出しのスープの材料を事細かに聞き出そうとしたり、施しを受けに来た人々に、どこに住んでいて普段何をしているのか、どのくらいの頻度でここに来るのかを根掘り葉掘り聞き出して、委縮させてしまったり……

 悪気はないのかもしれませんが、むやみに詮索されるのは誰にとっても嫌な事。

 ましてや施しを受けるなどという、人として恥ずかしい事をしている惨めな人々にとってはどれほどの屈辱でしょう。

 そんな人たちがウロウロしていては、憐れな貧民が施しを受けに来られなくなってしまいます。どうかその人たちが一日も早く己の非を悟って悔い改めますように。


 エスピーア様からのお便りには、わたくしの苦しみの諸悪の根源はやはりあのお方だろうと書かれていました。実はあの方が仕掛けた卑怯な罠のせいで、僻地で貧しい子供たちを救うために活動している高潔な志を持つ下位貴族が多数、無実の罪で逮捕されてしまったのだそうです。教会に不審な人々が押しかけているのもあのお方の差し金かもしれないとか。

 それだけではありません。孤児院の周辺も何かコソコソと嗅ぎまわっている輩が出没していて、それを後ろで糸を引いているのがあのお方の可能性があるのだと。

 あのお方が旦那様の正妻であるわたくしを妬んで貶めようと必死なのはわかっておりますが、だからといってわたくしの大切な癒しの場を次々と荒らしまわるとは、神をも恐れぬ所業でございます。

 何とかして一刻も早くあのお方に正義の鉄槌を下し、わたくしたちの大切な癒しの場である教会と孤児院を守らねばなりません。

 そして二度と生意気な顔ができないよう、身の程を思い知らせてやらなくては。


 わたくしはすぐさまプルクラ様、エスピーア様にお返事を書きました。

 邪悪なあのお方の野望を砕き、わたくしたちの癒しの場である教会と孤児院を守るためなら、どんなことでもする所存です。わたくしはお二人へのお返事で、わたくしにできる事なら何でもします、どんな事でも良いのでお申しつけ下さいと書き送りました。


 あのお方が教会や孤児院に悪しき介入をしている邪悪な人間であることがわかってから、わたくしは今まで以上にあのお方と接するのが苦痛になりました。

 また今朝も早い時間に叩き起こされ、あの方とアナトリオの下らない散歩に付き合わされ、苛立ちもひとしおでございます。なぜこのような無駄な事に時間を費やさなければならないのでしょう?  


「今日もアナトリオの散歩はディディがつきあってるのか?パトリツァはディディにアナトリオを取られたくないから自分で面倒を見ると言う話ではなかったのか?

 結局は全てディディに任せきりで、自分では何もしていないではないか」


 出勤の支度を済ませた旦那様が、苛立ちを隠そうともせずに乳母に文句を言っておられます。まるでわたくしが自分で言い出した事も守ろうとせず、わたくしのなすべきことをあのお方に押し付けているようではございませんか。

 実際はあのお方が好きで出しゃばって下らない事にえんえんと時間をかけているだけ。高位貴族として生まれ育ったわたくしには赤子の世話なんて汚くて臭い、賤しい真似はとてもできないだけです。

 なぜそんな当たり前の事がわからないのでしょう。

 頭脳明晰と評判の高い旦那様とは思えない愚かしさ、やはり愛人という邪な存在が聡明な旦那様の眼をも曇らせているのでしょうか。


 やはり1日も早くあのお方に相応しい罰を与え、2度とわたくしに逆らおうと思えぬようにしっかりと躾けてやらなければ。

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