パトリツァ・コンタビリタ 十二
本日はプルクラ様と今話題の芝居を見物に参ります。
プルクラ様はボックス席をご用意くださったので、他の観客に煩わされることなくゆったりと見物できますわね。
本日のプルクラ様は渋みのある赤地に東方風の花柄を
わたくしは若草色と深緑の細いストライプの
今日の芝居は巷で人気の恋愛小説を基にしたもの。わたくしも事前に原作を読み通してまいりました。
ストーリーは夫にないがしろにされた高位貴族の妻が、自らを
ここ数年、巷で流行っている「ざまぁ物」というジャンルらしゅうございます。
わたくしも一時は旦那様の愛を疑って毎日寂しく退屈な日々を過ごしておりましたので、とても他人事とは思えません。もっとも、プルクラ様と親しくおつきあいするよう になった今は、旦那様との会話も増えて、とても楽しい日々を過ごしておりますが。
わざわざイオニアから招かれた劇団だけあって、異国情緒漂う舞台に美しい役者たち、素晴らしい音楽の数々が紡ぎ出す物語はまるで夢のよう。見る者を幻想の世界へといざない、自分が物語の登場人物の一人であるかのように錯覚させます。
わたくしもすっかり夢の世界にのめりこんで、まるで自身がヒロインになったかのような心地で真実の愛の物語を味わっておりました。
不実な夫が賤しい愛人とともに罰を受けて没落し追放されるシーンでは、
お芝居が終わり、まだ余韻がさめやらぬまま、ほうっと舞台をみやっておりますと、お隣のボックスから聞き覚えのある声がします。思わずそちらに目をやりますと、なんとエスピーア様が年配の女性とご一緒にいらっしゃるではありませんか。
「あら?エスピーア様もいらしてたんですの?」
「これはタシトゥルヌ侯爵夫人、お隣のボックスにいらっしゃったとは今まで気付きませんでした。こちらは母です。
今日は巷で話題の芝居を見たいとお供をさせられまして。母上、こちらはタシトゥルヌ侯爵夫人パトリツァ様です」
「タシトゥルヌ家のパトリツァですわ。よろしくお見知りおきを、イプノティスモ子爵婦人。こちらはティコス男爵家のプルクラ様ですの。
最近お友達になりまして、よく教会にご一緒しますのよ」
こんな偶然もあるのですね。さきほどのお芝居の内容が内容でしたので、なんだか運命を感じてしまいます。
「素敵なお友達をご紹介くださってありがとうございます。パトリツァ様もお元気そうで何よりです。
そのご様子だと、お心の曇りは晴れたようですね。そんなにご利益があるなら、私も教会にご一緒してみようかな?」
「ええ、是非に。近々バザーがございますの。お母様もご一緒にいかがでしょうか?」
エスピーア様のお母様やプルクラ様も交えてお話がはずみます。すっかり意気投合したわたくしたちは、外宮近くのカフェに席を移しておしゃべりを愉しみました。
教会のバザーや炊き出しなどの奉仕活動のこと、孤児院のこと。
エスピーア様も、わたくしたちの活動にすっかり興味を持ってくださって、来週炊き出しにご一緒することになりました。炊き出しの日は大勢の人が集まりますので、殿方がいらっしゃると心強いです。
わたくしは来週またエスピーア様、プルクラ様にお目にかかれるのが楽しみでたまりません。
今日は素晴らしいお芝居を堪能できただけでとても喜ばしい1日でしたのに、また新たな楽しみができてしまいました。プルクラ様に出会ってから、わたくしは万事良い方向に進んでいるようでございます。
プルクラ様はわたくしの幸運の女神ですわ。今日も旦那様がお帰りになったら、さっそくお話しなくては。
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