最高のパートナーと結婚することになったけど、役割が決まらない。

宇部 松清

第1話 高月と阿島

高月たかつき阿島あしまって付き合ってんの?」


 向かいに座ってそんなことを尋ねてきたのは、当時学級委員長だった畑山だ。ちなみに女子である。


 高校の同窓会である。といってもそこまでガチなやつではなく、数人に声をかけたら芋づる式に結構な人数になった、ってだけの飲み会だ。公式のやつじゃない。


「そんなんじゃないけど」


 お決まりになっている台詞を返して、『とりあえず生』で勝手に決められたジョッキを呷る。


「えー、だけどさ、一緒に住んでるんでしょ?」


 畑山がそう言うと、彼女の後ろをたまたま通りがかった横沢が「うっそ、一緒に住んでんの?!」と立ち止まった。ちなみにこいつも女子である。


「ちょ、ヤバいヤバい。それって絶対BLじゃん!」


 横沢は、ふんふんと鼻息を荒くし、「一緒に住むに至った経緯を詳しく!」と無理やり畑山の隣に座って身を乗り出してきた。その隣にいた内田が明らかに迷惑そうな顔をしている。


「経緯って言われても。ほら、一緒に住めば折半じゃん、色々と」

「あー、家賃とか光熱費とか」

「それと食費もな。そん時阿島がすげぇ金なくてさ。俺もどっこいだったから、それで、一緒に住んだら生活費浮くよな、って話になって」

「ほうほう、良いね良いね。流れとしては自然だね」

「自然って何だよ。不自然なパターンもあるのかよ」

「そりゃあそっちの世界には色々とね」


 いつの間に取り出したのか、メモを片手にうんうんと頷いている。畑山はというと、そんな取材スタイルの横沢を冷めた目で見つめ、ざくろサワーをちびりと飲んでいる。何で女子は『とりあえず生』じゃないんだろう。


「それで? 阿島はどうしたの? 今日来るんじゃなかった?」


 ぐるりと見回して、「いないじゃん」とつまらなそうな声を上げる。


「ああ、遅れて来る予定。仕事が長引いてるみたいだから――」


 とスマホを見ながら返す。


『後輩が書類をなくした』

『見つかるまで帰れない』

『ちょっと遅れる』


 そんなメッセージが届いたのは、午後六時を回った時だった。その画面を見せると、畑山は「へぇ」と興味なさげな視線を寄越し、横沢は、ふほっ、と妙な声を出した。声というか、空気漏れのような音だった。


 俺としては、全く色気の欠片もないメッセージのやり取りを見せることで、俺達が関係ではないということをアピールしたつもりだったのだが――、


「熟年夫婦! これは熟年夫婦ですわ!」


 少々腐れた女子の方には逆効果だったらしい。


 それから横沢は、ふっほふっほとやたらリズミカルな鼻息を噴出しながら、俺達が普段どのような生活を送っているかを敏腕記者ばりにぐいぐいと質問してきた。酒の勢いも手伝って、かなりペラペラとしゃべってしまったが、問題はないはずだ。


 何せ俺達は本当にそういう関係ではないのだし、そういう関係になりかけたことだって一度もないからである。

 

 どれだけ叩いても埃なんか出てくるわけがないのだ。

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