第8話
ごきげんよう、諸君。
少しばかり久しぶりだが、今回は
さてさて、今回の襲撃は一部を除いて順調に推移しているがまあそれはいちいち喜ぶまでもない、当たり前の事だ。
何せ戦力が違うからな。
「……………」
「か、閣下……」
それだけに、フェルトちゃんは目の前で繰り広げられているまさかの失態に激しく動揺しているようだ。
大したダメージにはなっていないだろうが、仮にもナイトメアの幹部であり専用機まで持ち出したはずのエドラスが、エリートとはいえたかだか学生ごときに一杯食わされたのだから、そりゃ動揺のひとつもするだろう。
非常に珍しい事にクールなフェルトちゃんがめちゃくちゃ目を泳がせており、周囲で固唾を飲んで見守る部下たち──この巨大空中戦艦ロード・ナイトメアの艦橋で働く事を許された精鋭であり、全員が幹部候補とも言える多少の強化手術が施された改造人間たちである──が醸し出す緊迫感と相俟って、私の一挙一動に注目している。
乙女をそんなにじろじろ見るんじゃない、鬱陶しい。
「フ………。そうビクビクするな、フェルト。エドラスを遥か彼方へと吹き飛ばした娘は、いわば一種の特異点。つまりはあのティアナ・エンクラッドと同様に、世界を一変させうるだけの才能を持つ怪物だ。それに対し舐めてかかったのではエドラスがああなるのも当然というものだよ」
「あ、あのエンクラッド博士と同じ……!? では、私が出撃してでもすぐに排除を……いえ、身柄を拘束した方が……?」
しれっとそう言っておく。
フェルトちゃんですらも知らないが、エドラスに手痛い一発をかました白いコア・ナイトのパイロットことニアモは、私と同じく「ティアナ・エンクラッド」の一人だ。才能という面では他を圧倒していて当然である。何せ私だからな。
とはいえ、フェルトちゃんの出撃を許してしまえばさすがにいくらニアモといえどあんなポンコツではどうにもできん。「悪の組織のボス」たるに相応しい力を有する私とは違い、ニアモが使える力はかなり制限してあるからな。
確実に、ざんねん、ニアモのぼうけんはここでおわってしまった! というオチになってしまう。それにはまだ早い。
なので、こうする。レオン少年も力を得る頃だしな。
「それには及ばん。メニーニャとオルテゴの二人をエドラスと合流させろ。それで十分片がつく。奴らの仕事は済んだ頃だろう?」
「……はっ! ええ、確かに。ちょうどターゲットを始末し終えたようです。回線開きます」
『はぁい? どうしたのぉ、ますたぁ? メニーちゃん、ひと仕事終えておやつタイムだったのにぃ』
『おおう、マスターか! まだまだ暴れ足りねえ!! 次のターゲットは何処だァ!?』
ナンバーズ・エイト、メニーニャ・ラバーラック。
広域洗脳兵器ペンデュラム・ノヴァという特殊装備を搭載した薄い青色の専用機、アンジェロ・アハトを駆るロリっ子だ。
ただ、あくまでロリロリしているのは見た目だけで、実年齢で言えば普通に成人女性である。私が興味本位で行った不老手術の実験体の数少ない生き残りであり、それと同時に、魔法を一切使うことなく頭の中身をいじる事で私への絶対的な忠誠心を植え付ける事にも成功した、大変興味深い個体でもある。
直接的な戦闘能力こそ高くはないが、運用次第ではフェルトちゃんに匹敵する戦果を挙げる事も可能だろう。
ま、その代償として精神的な面がぶっ壊れてしまい、かなりサディスティックな性格の問題児になってしまったのだが。
なあに、科学の発展に犠牲はつきものデースってやつだ。
そして、雄々しい声で応答した筋骨隆々の大男は、ナンバーズ・ナイン、オルテゴ・ジード。
特に精神面をいじっていないにも関わらずとにもかくにも暴れたがる根っからの脳筋で、専用機も近接武装やガトリング砲、ショットガンなどの近距離兵器で固め、装甲を厚くした緑のコア・ナイト、アンジェロ・ノインだ。
色々と特殊なメニーニャとは違い、正直に言うとこいつにはそれほど期待していない。
何故かと言うと、どう考えてもとてもじゃないが長生きはできそうにないタイプだからだな。
一応手術に成功した改造人間なのでナンバーズに入れてはみたが、頃合いを見てかませ犬にでもして使い捨てるのが得策だろう。
さすがに、今回ぐらいは生還してもらわないと困るが。
「──私だ。そちらは順調なようで何よりだな、二人とも」
『『……か、閣下!?』』
基本的にナンバーズやクローン兵どもへの指令はフェルトちゃんから下されるため、私が直接通信を開いて指示を出す事はそうそうない。少なくとも今まではな。
故に、滅多にない出来事に二人は目を剥き、慌てて身嗜みを整えてビシッと敬礼をしてきた。
メニーニャは純粋に「大好き」な私への忠誠心からだが、オルテゴはいつ捨てられるかも分からないという不安、あるいは恐怖から出た行動だな。
突進しか能がない考え無しのバカに見えて、その実オルテゴという男は案外ナイーブな内面を持ち、自分が他のナンバーズと比べると数段劣る事は自覚しているのだ。だからこそ功を焦り、結果として突撃ばかりしたがるというわけさ。
「面白い事に、予定通りの区域で作戦行動に当たっていたエドラスが学生の一人に不意打ちをもらって一時戦線を離脱した。すぐに戻りはするだろうが、その分時間はロスする。お前たちも奴の援護に向かえ」
『『はっ!! 全ては偉大なる閣下の為に!!』』
「フェルト。お前はエドラスが始末するはずだった連中を消してこい。その後、撤収だ」
「はっ、すぐに」
これでよし。
二人とも自分たちよりも一応は上位のナンバーズであるエドラスが一時とはいえ戦線離脱したと聞いて一瞬動揺していたが、私の前とあってすぐに気を取り直したようだ。
今頃、メニーニャは現場に向かいながらブチ切れているのだろうな。いざって時に役に立たない奴ほど下らねェモンはねェんだよあのオカマ野郎! だとか言ってそうだ。あの子、普段は私に気に入られたくて猫を被っているが、元々がスラム生まれのスラム育ちだからな。本来はめちゃくちゃ口が悪いんだ。
オルテゴの方は、大方骨がありそうな奴が現れたとかなんとか考えて、上機嫌になっているかな。ついでに、討ち取ればイイ顔ができるという考えも頭にあるだろう。
さて。
私が描いていたシナリオ通り、エドラスのターゲットである各国のきたない大貴族をフェルトちゃんがサクッと消してくるまでの数分間。
せいぜい死んでくれるなよ、レオン少年。
そのためにわざわざ私の一人を送り込んだのだから。
ニアモを通して見るレオン少年御一行は、エドラスが戻ってくる前にさっさと戦場を移動し、時折ナイトメアのゼイラムを発見してはニアモを中心として共同で当たることで撃破している。
『ガァァアキィィィどォォもォォォォ!! よ、よくも、よくもこのアタシに恥をかかせたわねェ……!! ぶっ殺してやるァァァ!!』
『アイツ……!!』
『そんな! ニアモさんの、あれほどの一撃を受けて、ダメージが全く無いように見えますわ!?』
大混乱に陥る中、なかなか順調に立ち回っていると言えるが、しかし思わぬ反撃に激怒している様子のエドラスが遂にレオン少年たちに追いついた。
頼みの綱であるニアモの機体は性能の限界を超えて無理をさせすぎたせいで主に駆動系がボロボロになってしまっており、レオン少年とネメハくんの機体もとうに限界に近い。
対して、エドラスのアンジェロ・ゼクスにはダメージがほとんど入っていない。
ま、いくら私の一人であるニアモと言えど、数世代分も性能で劣るコア・ナイトでは限度があるという事だ。あそこに居たのがニアモではなく私だったのなら話は別だが、特にこれといった能力を持たないニアモは所詮、「人間の才能を突き詰めただけの天才」でしかないからな。
このままではメニーニャとオルテゴが合流するまでもなく全滅するのは時間の問題だが、予定ではそろそろアレが到着する頃だ。
ヒーローは遅れてやってくる、と言うだろう?
『これは……僕を、呼んでいるのか……?』
『コア・ナイトが飛んできた……? って、ちょっとユークトリアの!?』
『あァン!? ナイトメアの機体じゃないわねェ……この期に及んで増援とは往生際の悪い!!』
ナイトメアによるエンクラッド研究所襲撃事件の際、行方不明となったハズのコア・ナイト。
最後のオリジナル・セブン、「エンドウルゴス」。
それが今、レオン少年を守るかのようにこの戦場に現れた。
というか、ようにではない。
悪魔じみた禍々しい漆黒のコア・ナイト、エンドウルゴスは本当にレオン少年を守るために来たのだ。
コードネーム、「ヒーロー」。
何を隠そう、アレはコア・ナイトの形をしているが、私やニアモと同じく「ティアナ・エンクラッド」の一人なのである。
つまり、他のコア・ナイトとは違って意思があるし、ティアナちゃんを模した人工知能……に見せかけた私が、パイロットを補助する仕組みになっている。それっぽく言うならば、ティアナ・システムとでもいったところか。
まあ、他のオリジナル・セブンやナンバーズの専用機にもティアナ・システムはこっそり搭載してあるんだが、今は全部封印している。要は中のティアナちゃんたちが寝てる。そりゃもうぐっすりである。
で、あのエンドウルゴスという機体はオリジナル・セブンだけあって、その性能はナンバーズの専用機に迫るほどのものであり、使いこなす事ができればここでエドラスを倒す事も夢ではない。
ま、その前にメニーニャとオルテゴが到着するから、結局不可能ではあるんだがね。
全て計算通り。
この私に「予想外」なんて有り得ないのさ。“全知”は伊達では無いということだな。
さあ、舞台は整えてやったぞ、レオン少年。
私の脚本通り、“主人公”として存分に踊りたまえよ。
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