パーガトリー・リボルヴ
初音MkIII
第1話
突然だが、君に問おう。
“天才”とは何か?
私は、天才とは即ち運命に愛された者の事を指すと考えている。
研究に行き詰まれば都合よく解を閃き、すらすらと答えを紡いでいく。
鍛錬をすればするほど成果が目に見えて反映され、理想的な肉体をいとも簡単に得る。
勝てるはずのない格上に勝ってしまう。
絶体絶命のピンチを都合よく切り抜ける。
掃いて捨てるほど存在する最下層階級の生まれでありながら、たまたま訪れた上流階級の者に見出され、その養子となる。
天才と呼ばれる者は大体そんな感じの人生を送っている訳だが、これはつまり運命に愛されているという事だろう?
少なくとも私はそう結論付けた。
そしてその上で言おう。
私は、この世で一番の大天才である。
生憎、それが喜ばしい事かと問われると首を捻るのだが。
両親はどこの馬の骨とも知れず、気付けばスラムで一つの死体と共に寝転がっていた。
その頃の私は五歳だ。
そして、共に転がっていた死体というのが人類史上最大のバカ野郎であり、同時に、私にとっては恩人とも怨敵とも言える。
そんな死体の正体は、この世界を“平面”……いわゆる二次元として捉える上位世界からやってきた「転生者」だ。
私か? 私はそいつから知識を横取りする羽目になっただけの現地人だとも。
さて、その転生者が無様にスラムでくたばっていた理由だが、実に阿呆な事だ。
あの野郎、直前に出会ったらしい転生を司る神がとんでもない邪神だとも気付かず、分不相応に「全ての知識」などと言う大仰極まりない代物を転生特典として要求しやがったのだ。大仰な上に大雑把すぎるだろ常識的に考えて。
邪神は当然それが「人間の魂一つ分」程度の代償ではとても足りないと知っていながら、快諾した。
では足りない分の魂はどこから持ってきたのか?
答えは簡単。
あの大バカ転生者を含めた、奴の「前世」にちょちょいと挨拶し、国一つ分の生命全てを刈り取る事で補填したのである。
結果。
転生したはずのバカ野郎は肉体だけをこちらの世界に寄越し、とんでもない代償を払って生み出された「全ての知識」を詰め込んだ書物などという特級の危険物を置いて、魂ごと消滅した。
要は、要求した特典のせいで転生失敗しやがったのである。ついでに無関係な生命を大量に巻き込んで。
さて、ここでようやく私の登場だ。
運命に愛されてしまった大天才である私は、たまたまその大バカ野郎の死体が転がっている場所を通りかかり、よせばいいのに首を傾げながら特級の危険物……知識の書物を手に取ってしまった。
その瞬間、私は全てを識った。
そうか、そうだったのかってやつだ。
ここで頭がパーンしないのが、私が運命に愛されている事の証左であろう。
様子を見守っていたらしい邪神にロックオンされ、せっかく作った「全ての知識」を現地人にインストールしたらどうなるのか? というクソみたいな実験を始められてしまったのだ。
どうなったのかって?
若干五歳にしてクソ生意気な喋り方をする、無駄に賢しいガキんちょの出来上がりである。
そのくせ住んでいる場所はスラムだ。
純粋無垢とは程遠い同郷の子供たちだけでなく、手癖の悪い大人たちにまで「わけがわからないよ」とでも言いたげな顔をされたが、私だって好きでこんな意味不明な生命体になってしまった訳では無い。
だがまあ、世の中には奇特な人間が居るもので。
生きる粗大ゴミとまで揶揄される事もあるスラムの住人の中に、上流階級顔負けの知識量を誇るクソ生意気な天才児がいるという噂を聞きつけた貴族様が、私の様子を見に来た。
時に、私が六歳の頃であった。
そして、運命に愛される大天才たる私はその貴族様に気に入られ、養子として迎えられた。
その後、まぁ色々あった。
スラム出身という事で貴族仲間に「サッカーしようぜ! お前ボールな!」的な事をされてしまわないように必死に自身の有用性をアピールしてパパンに保護を求めたり。
その延長線上というか途上の成果として、訓練さえ積めばそこらの農民でも竜を仕留める英雄になれる巨大人型兵器、「コア・ナイト」を開発したり。
素材? ちゃっかり私の心臓……というか存在そのものと同化しやがった例の書物から引き出した知識を参考に作った、クソ便利な合金だ。
その名もコアニウム合金。センスゼロかよ。
合金の素材はどこから来たのか? 実にありがちなつまらない話だ。
この世界では使い道が見つからないゴミ屑として扱われていた物が、とある事をすれば超便利な性質を持つようになる、というご都合展開である。
それをパパンに頼んで買い込んでもらっただけさ。さすがに首を傾げられたし難色も示されたが、恥を忍んで一世一代の駄々っ子攻撃を繰り出してクリアしたよ。二度とやらんわあんなこと。
その功績を称えられ、若干七歳にして学生生活を全てすっ飛ばして博士号をもらったり。
この国の連中頭おかしいんじゃねえの。当時の我七歳ぞ? 成長するから問題ないゾと手渡された白衣なんぞブカブカもいい所だったわ。
コア・ナイトという新兵器を得た我が国が、敗色濃厚だったはずの戦争に一週間で勝っちゃったり。
頭おかしい上層部の皆様に撫で回されて、割とガチめなノリで「ウチの子にならない?」と勧誘祭りされたり。
親バカを極めたパパンの鉄拳が唸ったり。
その後のたった十年間で、弱小だったはずの我が国が大陸の半分を制覇しちゃったり。
コア・ナイトの威力にビビり倒した他国から注文が殺到して、あっという間に世界中に普及したり。
ああ、もちろん他国に売ってるのは我が国で使われている機体よりも数段下の性能に抑えてあるとも。
死の商人したら自分が滅ぼされましたとか阿呆すぎて笑えないからね、仕方ないね。
この世界にとって無くてはならない存在と化したコア・ナイトのパイロットを養成する士官学校が各地に設立されたり。
講師として招かれたが、とりあえずササッとマニュアルを拵えて我が国の各地にばらまいておいた。
着任するかどうか、するにしてもどこの学校に行くか、なんかは現在考え中だ。
そう、現在。
わたくしこと、人類史上最高の大天才ティアナ・エンクラッド十七歳♀。
知識にある「神の軍勢の襲来」に備え、人類を守る最強のコア・ナイト“アグナマズダー”を建造している真っ最中でございます。
その名が持つ意味は、「神の否定」。
思わぬ形とは言え、邪神から頂いた知識という名のチートさんをフル活用している私が言うことじゃねえなこれ?
というか、神の軍勢の襲来って。
絶対これも邪神の手のひらの上なんだろうなぁ。
チートさんを横取りしただけだから邪神と会った事はないんだけど、知ってはいる。
この世界に軍勢を率いてやってくる神は邪神と敵対していて、どうやら私が生まれる以前からこの世界に目をつけていたようだ。
そんで、十年後。
辛抱たまらんとばかりに攻めてこられるのだ。
私の見立てでは、丁度十年で神の軍勢に対抗しうる戦力が揃い、人類種の滅亡に抗えるだけの環境が整う。
時間ピッタリである。
これも全ては邪神ってやつの仕業なんだ。
「さっきからブツブツ言ってないで手を動かしてください、ティアナ博士」
「待つんだモティエールくん。そろそろ寝ないとお肌に悪い」
「まだお若いのに何を言ってんですか。多少無茶したって十分リカバリーできますって。そんな事よりさっさと作業してください」
「ティアナちゃん知ってるよ。そう言って無茶した結果汚いお肌になっちまった元乙女たちが大勢いるって。ほら、目の前にも」
「喧嘩売ってるんですね? 言い値で買いますよ」
おーまいごっど。
目の前のご令嬢、モティエールくんは女だてらに類稀な才能を持つエンジニアなのだが、如何せん未だ独身で余裕が無さすぎてジョークが通じなゲフンゲフン。
ティアナちゃんなにもいってないよ?
モティエールくんは現在二十歳なのだが、その歳で独身というのはいわゆる行き遅れと言うやつである事は確かだね。
おっと、つい本音が。
私が缶詰にされているこの研究所は、私のおかげで世界一の大金持ちで国一番の大貴族になったパパンの出資によって建てられた、世界最先端の施設だ。
その中でも、選りすぐりのスタッフたちによって運営されるこの地下十階の特別ラボは存在すらも秘匿され、たった一機のコア・ナイトを建造するためだけに活動している。
エレベーターにも地下九階までしか行くボタン付いてなかったりするからね。存在しないハズの地下十階ってやつだ。ホラーかな?
そのたった一機のコア・ナイトこそが、アグナマズダー。
神の否定を意味する、人類の切り札。
この世界の戦争に革命を齎した人類史上最高の大天才、私ことティアナ・エンクラッド自らが一から十まで設計を担当した最高傑作……になる予定だ。
動力源は二つ。
莫大な魔力を生み出す無限エーテルエンジンと、そこから取り出した魔力を食って動く縮退炉だ。
無限エーテルエンジンは、無限と言いつつも実は有限である。
それ単体では一ヶ月ほど運転し続ければ停止する。まあ、周囲に魔力さえあればそこから取り込んで再起動するんだが。
こんだけ動けば充分じゃろ。
そんで縮退炉。
知識の書物から拝借した、遠い異世界の大天才が設計&開発した代物なのだが、私のようなチートさんも無しにこんな物を作り上げるとか化け物かな?
素材をこの世界の物で代用できたのは幸いだった。
ママンが腕利きの錬金術師だったから、そっちに頼んで作ってもらったんだけどね。素材の方を。
年齢を感じさせない若作りなママン曰く、「設計図があるんなら作れない道理は無い」そうだ。
ついでに言うなら、意思っぽい何かを持つエネルギー、マグナ・システムも搭載している。
動力源が完成してるならもう動くんじゃねーの? と思った君は実に賢い。ティアナちゃん印の勲章を差し上げよう。
そうとも。
アグナマズダーは、もう動ける。
こいつ、動くぞ……! ってやつだ。
しかし、しかしね。
必殺武器がまだ完成していないのだ。
あとパパンとママンに言われた、絶対安全なパイロットの緊急脱出装置も未完成だね、ついでに。
ありがたいことに、二人とも超必死だった。
何せ、こいつには私が乗る予定なのだから。
と言っても名目上は技術試験機であり、実戦にはまず出る事がない……という事になっている。一応。
先程モティエールくんにせっつかれて泣く泣く作業する羽目になったのも、当然必殺武器の製造である。
他の武器は大体完成してるし、ゴテゴテとした機体のフレームも抜かりなし。色は白をベースに所々を金色で装飾した、漂白された悪魔のような外観となっている。
もうほとんど完成してるじゃねーか! と言われそうだし実際ママンにもそんな事を言われたが、必殺武器を持たないスーパーロボットなどガラクタ同然である。
私は声高々にそう主張したい。した。
説得の決定打は緊急脱出装置のご不在だったが。
尚、他のコア・ナイトはここまで無茶なスーパーロボットはしていない。むしろどっちかと言うとリアルロボット系である。
アグナマズダーの百分の一程度もない出力のエーテルエンジンを主な動力とし、ライフルじみたレールガンやビーム状に圧縮した魔力を発射するエネルギーライフルと、青かったり赤かったりする非実体型サーベルを主武装に持つ。
後は設計思想や開発者の趣味などで、色々な装備が増えたりもする。
縮退炉? 量産機に積んでるわけねーだろ。爆発したら世界が終わるわ。
開発者の趣味、と他人事のように言ったが、実際ほとんど他人事だ。
何せ、私が設計段階から開発に携わった機体は両手で数える程しかない。
他は自称天才や秀才の方々が頑張って作り上げた玩具が大半なのだ。ちょくちょく私がいじったりしてからロールアウトした機種もあるけどね。
知識チートにも程があるだろいい加減にしろ、と方々から文句を言われる事もある私自らが直接開発した機体たちは、その圧倒的な性能と希少性から、「オリジナル・セブン」と呼ばれ畏怖されている。
その子たちのパイロットとして選ばれる事こそが、世界各地のコア・ナイト乗りたちの憧れだ。
そのオリジナル・セブンの中でもパイロット共々最強と謳われ、我が国の守護神として睨みをきかせているのが、私の兄が操る「デウス・ゼロ」。
記念すべき人類史上初のコア・ナイトだ。
原点にして、最強。
カッコイイだろう?
ただしアグナマズダーは除く。
まあパイロットの方は私を見るとデロデロに甘やかすサイコシスコン野郎なのだが。
外面は常にクールで、甘いマスクをひけらかす「銀狼」なんてあだ名で呼ばれるパーフェクトマンなのだが、もう完全に手遅れな程にシスコンだった。
もしも私に男が出来たら、デウス・ゼロでそいつを粉々にしてやると真顔で言い放つぐらいだからな。
アレは誰が見ても分かるほどにマジだった。
「そういえば博士。オリジナル・セブンも六機はパイロットが決まって各地で活躍していますが、最後の一機は未だにラボで眠ったままですよね」
「何だね藪から棒に。まあその通りだが」
「どうせあれらを超える性能の機体なんてこのままだと一世紀は出ないでしょうし、パイロット候補生たちの資質を調べるのに使ってみてはいかがです? アレを使えるなら大概の機体は物足りなく感じるはずですし」
「ふむ。ひよっこ共の中から宝探しでもするつもりかね? だが確かに、もしも現行の機体ではついていけない程のパイロットが眠っているのなら、それを活かさないのは勿体ないか」
「士官学校の方からお話が来ているのでしょう? 時期的には丁度いいかと思いまして」
「しかしアグナマズダーの仕上げがまだ終わっていないからな。話はそれからだとも」
「ええ。ああ、数値が安定しませんねえ……」
「……そうだねえ……」
ぬぁあぁぁぁん疲れたもぉぉぉおん!!
なんでさ! なんで君はそう気分屋さんなの!
答えなさいよ“因果律破界砲”!!
この後めちゃくちゃ調整した。
天才は研究に行き詰まれば都合よく解を閃くんじゃなかったのか、だと?
限度ってもんがあるんだよぉ!!
と、言いたいところだが。
そろそろ頃合いか。
このままだと私がいなくなった後の人類が心配だし、来たるべき最終戦争で途方もない被害が出そうなのでね。
未だバラバラに動く人類を統一し、質の良い闘争で彼らの進化を促すための、「絶対悪」が必要だ。
プランを、始めるとしよう。
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