第812話 黄金に魅入られた者たち(9) 

 ――神堕ち島の遥か地下の大空洞。

 燃え上がる炎の前で茶色の髪色をしたトーガを着た男が膝をつく。


「セメクト様」


 男の声に炎が揺らぐ。


「どうした? ウリエル」

「これを見てください」

「ふむ」


 ウリエルが手を振るうと高さ20メートル、横幅50メートルほどの炎の壁が出現する。

 そして炎に映像が投影された。

 そこには、竜道寺と峯山純也の姿が映し出された。


「安倍晴明か……」

「はっ」

「前鬼と後鬼を操っていること。そして、その風貌から見て間違いなく――」

「まったく容姿が衰えておらんな。それにしても、安倍晴明が直接乗り込んでくるとは、どういうことだ?」

「わかりません。1000年前に約定を交わした安倍晴明との契約内容には、今回のような干渉についての記述はなかったかと……」

「ふむ……」

「それと、この男――、峯山と呼ばれているようです」

「峯山か……。まぁ、よい。安倍晴明については、約定通り捨て置け」

「分かりました。あと、もう一人の女ですが」


 映像の中には、純也と会話をしたあと巨大ダコの触手を素手の斬撃で切り飛ばした後景が映り込んでいた。


「この女、力を隠しておるな」

「はっ。おそらくは戦闘力はSランク冒険者クラスかと思われます」


 膝をついたまま男は、軍神セメクトに対して答えた。

 そんなウリエルの様子を見ながらも、軍神セメクトは映像に映っていた女――、竜道寺を見て「(それにしても、この身のこなし……、どこかで見た覚えがあるが……)」と、考えるが――、


「どうかされましたか? セメクト様」

「何でもない。それよりも、生贄の数は?」

「外部から侵入してきた生贄の数で十分足りています」

「そうか。それでは、約定通り安倍晴明にだけは手を出すなよ?」

「分かっています。それと――」

「どうかしたか?」

「はっ。魔王軍四天王の一人である死霊の王イシスの存在が、結界が解かれた直後、確認できました」

「――何!? 魔王軍だと? あれは、あの化け物により殲滅させられたはずでは……」

「分かりませんが、存在が確認できました」

「そうか(どういうことだ? 何故、レイネーゼが作り出していた魔物が、この世界にいるのだ?)」

「どういたしましょうか? コンタクトでも?」

「必要ない」

「そうですか?」

「ああ。それよりも、計画を前倒しにしろ」

「よろしいので?」

「うむ」


 燃え盛る炎から不機嫌そうな声色で命令を下すセメクトに一礼をすると、ウリエルは、その場から姿を消した。

 完全に気配が消えたのを確認しつつもセメクトは、「(どうして、アストリアの神々を突然、前触れもなく裏切った主神であり女神レイネーゼの配下が、この世界にいるのだ?)」と自問自答していた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る