第792話 島上陸(2)

高松港から出港した一団の船は、女木島との航行ルートと交差する。

そこから30分ほど瀬戸内海を移動したところで、先導の巡視船が停止する。


「大阪県警の岩本だ」


 岩本警視正が船から乗り出すようにして、船の下へと声をかける。

巡視船とは比べてはるかに小さい漁船に乗っていた男達が岩本警視正の話を聞くと幾つか話を交わしたあと、トランシーバーを取り出して会話を始めた。


「岩本警視正、彼らは一体?」


 竜道寺は、何をしているのか? と、岩本警視正の背後から話かけた。


「ああ。元・陰陽庁所属の陰陽師とのことだ。島を封印してきた一族との事だが、詳しいことは知らん。まぁ、そもそも陰陽師自体、私は信じていないがな」

「そうですか(つまり師匠の部下ってことか)」

「あの竜道寺さん」

「はい?」


 一緒に船に乗っていた峯山純也は、竜道寺にコンタクトを取るために、港から就航した後、機会を伺っていたが、かなりの美少女である竜道寺は、殆ど男しかいない集団の中では浮きまくっていた。

 おかげで話しかけるタイミングを逸していた。

 ただ、今は竜道寺と岩本との会話のあと、周りからの目は合ったが事務的な会話ができると判断した純也は話しかけた。


「竜道寺さんは、女性ですよね?」


 友人の桂木優斗からの依頼を手伝うという住良木からの提案について思うところがあった純也ではあったが、今回は修行の一環でついてきた。

 そして、その仕事内容に関して友人の部下である竜道寺に今後のことを含めて相談しようと思っていた純也であったが、どうしても気になっている事があった。

 それは、竜道寺という人物が男性だと陰陽庁から提供されたプロフィールに書かれていたからだ。

 なのに、見た目は絶世と言ってもいいほどの美少女。

 しかも想い人の凛子さんにどこかしら面影が似ていた純也は、任務よりも竜道寺の事について確認をしたのであった。


「えっと……今は女性ですね?」

「いまは?」

「つまり、元は男だったと?」

「二人とも、仕事以外の無駄話は止めてもらおうか?」


 近くで元・陰陽庁たちの動向を凝視していた岩本警視正は竜道寺と純也について注意する。


「申し訳ありません。岩本警視正」

「分かってくれたのならいい」


 すぐに意識を切り替えて職務を継続しようとする竜道寺。

 そんな竜道寺の後ろ姿を見て純也は溜息をつく。


「(俺は何を考えているんだ。竜道寺さんは、体内から放出されているオーラから見て間違いなく女性だ。しかも神格のオーラも有しているのに……。元々、男だった人間が女になれるわけないだろうに。しかも凛子さんに似てるとか思ってしまった……。もしかしたら凛子さんも男とか――、そんなバカな想像をしてしまった。はぁー、少し考えすぎだよな……)」


 純也は心の中で自分が考えたことをバカバカしいとばかりに頭を振る。

 自身の考えを戒めた純也。

 そんな彼の考えを隅に追いやるかのように唐突に高波が発生する。

 それと同時に船が強く揺れる。


「――な、なんだ!? ――あ、あれは……。――し、島が……島がいきなり目の前に――」


 結界が解除されると同時に、結界内部と結界外の気圧が一瞬で混ざりあったことで天候が崩れる。

 それと共に高波が発生しただけであったが、それに驚く前に一同の前に大島と同程度規模の島が出現した。






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