第787話 神社庁と大阪府警(1)

 大阪府警察本部本庁舎を出て歩くこと10分ほど。

 大阪城大手門を超えたあたりで、竜道寺は周囲に視線を向ける。


「どうかしましたか? 竜道寺さん」


 横を歩いていた岩本警視正が目ざとく確認すると、竜道寺に声をかけた。

 岩本警視正としては、先ほどの短い時間での受け答えでは竜道寺の真意が図り切れなかったこともあり、どういう思考をしているのか? という考えに至ったことで、頻繁に話をしようと考えたからの結論であった。


「いえ。今、通ったのは大手門ですよね?」

「はい。それが?」

「えっと、大阪城敷地内で神社庁の人と会うのですか?」

「それが向こうからの指定でしたから」

「そうですか」

「それに、大阪城敷地内には、大阪城だけではなく庭園もありますし梅林もあります。あとは、豊国神社がありますので」

「あ、そういうことですか」


 そこまで岩本警視正に語られた事で、ようやく竜道寺は得心が言ったという表情になる。

 そして、しばらく大阪城敷地内を歩くと石造りの鳥居が竜道寺の視界に入ってくる。


「お待ちしておりました」


 鳥居の前に辿り着くと、竜道寺一行に袴姿の女性が柔和な笑みで話しかけてくる。


「待たせてしまって申し訳ない」

「――いえ。それでは、ご案内します」


 巫女服の女性に案内された一行が通されたのは、畳の部屋。

 広さは、20畳ほど。

 そこには、出雲大社の元・巫女である天野桔梗。

 その横には、峯山純也が。

それぞれ畳の上で正座をしていたが、現代っ子の峯山純也には正座は堪えているのか無表情であったが――、


「――ッ!?」


室内に一歩、竜道寺が足を踏み入れた途端に、空気がピン! と、張り詰める。

途端に、正座を行っていたことが信じられないほどの速さで純也が正座を止めて立ち上がり警戒心剥き出しの視線を竜道寺へと向けた。

 

「純也。やめなさい」


 桔梗の言葉に、臨戦態勢を解除したが緊張感を漂わせたまま純也の視線は竜道寺の一挙手一投足を注視している。


「(なんだ? この女……。人間なのに、神気を宿している?)」


 竜道寺が纏っている神の気を瞬時に見抜いた純也は、警戒心をまったく緩めることはない。

 むしろ人間の身でありながら神の気を宿している異常性に純也は混乱すらしていたが、自身に稽古をつけた桔梗の一言に冷静になりながら自問自答していた。


「ごめんなさいね」


 水が流れるように無駄の無い動作で立ち上がった天野桔梗は謝罪の言葉を口した。

 400年以上生きてる彼女にとって、どういう状況では、どういう作法や、態度を取るのが正解なのかは、簡単に察することが出来た。


「――いえ! 気にしないでください」


 岩本警視正が何か言葉を口にしようとするところで、すんでのところで竜道寺が問題ないと機先を制した。


「そうですか。それは良かったです」

「あの、神社庁の方はお二人だけですか?」

「はい」

「そ、そうですか……」

「驚いているようですね?」


 桔梗が微笑みながら竜道寺に問いかける。


「ええ。まあ……はい……。今回は結界に封印されている島の探索と原因究明が主だと伺っていましたので」

「なるほど……。ただ今回、神社庁はあくまでもお手伝いという位置づけで伺っていますから」

「(そういえば、そうでした)」


 少し前に神谷警視正から受けていた説明を心の中で反芻しながら、


「申し訳ありません。自己紹介が遅れました。私は、竜道寺幸三と言います。千葉県警察本部の刑事課に配属されていましたが、いまは日本国政府、内閣府直轄特殊遊撃隊で働いています」

「これは、ご丁寧に。私は、天野桔梗と言います。神社庁に現在は籍を置いていますが、契約自体は、嘱託扱いです」

「嘱託扱いですか……」

「はい、それと――」

「峯山純也です。千葉県立山王高校一年です。今は、神社庁と嘱託契約をしています」

「そうですか」


 二人の説明に、竜道寺は頷きながらも正職員は来ていないということに若干の面倒くささを感じていた。 

 



 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る