第782話  都との会話(5)

――桂木優斗が立っていた上空1000メートル。


「――ど、どうして!」


 妖術により移動した白亜に、意識が戻った神楽坂都が食ってかかるように叫ぶが――、


「落ちつくのじゃ」


 神楽坂都の肩に手を置いたまま、深刻そうな表情をしたまま、白亜は神楽坂都を落ち着かせるように声をかけた。


「落ちつくって言われても……。だって! 優斗は、私を拒絶し――」


 白亜は左右に頭を振る。


「そんなことはないのじゃ。ご主人様が本当に拒絶したのなら、慌てて妾を呼ぶような真似はせん。それは汝、神楽坂都も理解しておるじゃろう?」

「それは――」

「ご主人様は、どう答えていいのか分からない。――もしくは答えてはならぬモノを汝に聞かれたことで、どう答えていいのか分からないのではないのか?」

「それは……って!? ――ど、どうして!? どうして! 白亜さんは、私と優斗のことを知っているの?」

「ずっと汝を護衛しておるからのう」

「そ、そうなんだ……。そういえば、そんなことを言っていたよね……」

「――と、いうことでじゃ」


 白亜は、神楽坂都の肩に置いていた手を離す。

 途端に、妖術の影響で空中に浮いていた神楽坂都の体が一瞬、重力の枷から解き放たれた瞬間、重力に従って落ちていく。


「え? えええ!?」

「あれじゃ。ご主人様なら、汝を抱きとめることくらいはしてくれるじゃろう。あとは、汝次第じゃ。ご主人様が何かを隠していることは確定しておるからのう」

「――それって……」

「さて、あとは汝が、どれだけご主人様のことを思っておるのかじゃな(ふっ、そのことを杞憂するのは野暮ではあるがのう)」

「分かりました。――で、でも――」


 途中まで言い切る前に、神楽坂都の体は重力加速度の影響を受けて急速に落ちていく。

 



 ――数秒後。

 神楽坂都を、白亜に送らせた桂木優斗は、ふと空を見上げる。

 そして、「何だ?」と、呟くと同時に、思わず桂木優斗は、何かが落下してくる気配を感じとる。 

 それと同時に、その気配は、彼が――、桂木優斗が良く知っているもので


「馬鹿な!」


 焦った表情を見せた上で、身体強化を瞬時に行った上で、波動結界により落下位置を刹那の時間に割り出し跳躍する。

 途端に、桂木優斗が踏みしめた石畳が粉々に粉砕される。

――と、同時に爆風が周囲に巻き起こると桂木優斗の姿が、その場から消え――、一瞬で数百メートル上空へ、その姿は舞い上がると――、


「きゃああああああああああ」

「――都っ!(あの馬鹿狐! 何をしてるんだ!)」


 優斗に向って上空から落ちてきていた神楽坂都に向って大声で怒鳴る桂木優斗は手を伸ばす。

 想い人である桂木優斗の声を聞いた神楽坂都は、そこで初めて桂木優斗の方へと視線を向けた。

そこには必死な表情をしている桂木優斗の姿があった。

それを見て神楽坂都は、「ゆうと……」と、呟くと同時に現状に見合わない満ち足りた笑顔を浮かべると、桂木優斗が伸ばした手を掴む。

 途端に、落下は止まり、そのまま空中で浮遊する。


「やっと、私を見てくれたね……えへへ」


 そこでようやくはにかむような笑顔を神楽坂都は見せた。

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