第767話 銀行襲撃エピローグ(2) 第三者Side

 胡桃とエリカの二人が銀行員の案内により応接室に入室してから時間がしばらく経過したところで、


「胡桃、外で何かあったみたい」

「そうなの?」


 銀行員が淹れた紅茶を飲んでいた胡桃の視線が、銀行員へと向かう。

 すると銀行員と目が合う。


「何かありましたか?」

「――い、いえ。何もありませんが……」


 しどろもどろと言った感じで銀行員の目が泳ぐ。

 どうやら表情に出てしまう性質らしく、あまり腹芸は得意ではない人間のようであった。


「エリカちゃん」

「問題ない。霊力の動きから、周囲の状況の確認は取れてる。すでに事態の収拾は竜道寺の手で終わっている」

「そうなの?」

「間違いない。あとは警察の仕事。私たちを足止めしているのは、胡桃の安否を気遣っての銀行側の配慮だと思われる」

「へー」


 二人の会話を聞いていた銀行員が茫然とした表情をしたまま、苦虫を潰したような表情をして頭を縦に振った。

 それは、エリカの発言が正解だという事を行程していた。

 エリカが異常に気が付いてから1時間ほどが経過し、銀行応接室のソファー上で横になっていた胡桃は、ドアノブが回る音に気が付き居住まいを正した。

 それから数秒後、ドアが開くと、応接室には銀行員と竜道寺が二人して入ってきた。


「竜道寺、外の問題は片付いた?」

「はい。すでに千葉県警に――って!? 何故に、それを!?」

「そんなのは簡単。竜道寺は五感が鍛えられているように、私は霊力や神力から周囲の状況を感じとることが出来るから」

「そ、そうですか……。本当は、民間人には黙っていることだったのですが……」

「問題ない。それよりも、そろそろ胡桃が限界だからいい?」

「え? 何のことかわからないよ!? エリカちゃん」

「なら、頑張る?」

「頑張らないっ! もう限界だから! 外に出ていいのよね? 銀行員さん!」

「――は、はい?」


 男の銀行員の横を急いで通り過ぎた胡桃は応接室から出ていった。

 そんな後ろ姿を見ていた竜道寺は、「エリカさん。何かあったんですか?」と、尋ねたが――。


「竜道寺、もう少しデリカシーを学ぶべき」

「え? 何の――」

「それよりも、受付に戻る」


 エリカは、ソファーから立ち上がると竜道寺からの質問には一切! 答えずの応接室を出ると受付窓口へと向かった。

 受付には、すでに人払いが済んでおり一般利用客は一人もいなかった。


「賢明な判断」

「お褒め頂きありがとうございます」


 竜道寺と共に付いてきた銀行員が笑みを浮かべる。

 先ほどまでエリカ達を接待していた銀行員ではなく50歳過ぎの年配の銀行マン。


「店長?」

「はい」


 エリカの言葉にニコリと笑みを浮かべたまま、彼女の言葉を肯定する銀行員を半眼になり値踏みするエリカは深く溜息をつく。


「今日は利用しない」

「それは残念です。またのご来店をお待ちしております」

「分かった」


 エリカは短く答えたあと、「お待たせっ!」と、元気よく戻ってきた胡桃と合流し、竜道寺と共に銀行から出た。

 

 

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