第746話 修行2日目(1)

「それだと納得しない国々もあるということです。桂木警視監」

「まぁ、だろうな」


 何が起きたのか分からないからこそ、俺に依頼をしてきたんだろうし。

 何よりも長年、なあなあで済ましてきた北方領土の樺太や、北方四島を国連加盟国が俺に譲渡するという念書に近いモノまで出してきたのだ。

 その点から見ても軽い依頼ではないのだろうということは一目瞭然だ。

 なら、依頼内容が正しいかどうかは置いておいて目視で確認したいというのは、人間の性だろう。


「ご理解いただいて何よりです。――では、連絡をしておきます」

「ああ、そこは任せた」

「はい。お任せください。それと、二日後に瀬戸内海の怪異を調査することになりますので、彼というか竜道寺さんのことをなんとかしておいてください」

「分かっている」


 あと2日間もあるのだ。

 まだ、技の稽古に入るための必要最低限の基礎体力しか出来てはいないが、何とかなるだろう。

 問題は、伊邪那美が許可を出すかどうかだが。

 仕事が終わったあとは、竜道寺の運転する車で自宅に戻ることにするが――、


「竜道寺」

「はい?」

「お前、今日は洋服や下着を買いに行ったんじゃないのか?」

「そうですが……」

「荷物が車に積まれていないが、どこに持って行ったんだ?」

「先に自宅の方へ神谷警視長と共に運びました」

「なるほど……」


 帰ってくるのが遅いと思ったが、竜道寺が元々住んでいた自宅の方へ下着や洋服は運んだということか。

 まぁ、屋上に張ったテントの中に運びこむのは微妙だからな。


「だが、それだと着替えとかはどうするんだ?」

「そこは師匠に作ってもらおうかと」

「ふむ……。まぁ、いいが――」


 まぁ、女の洋服や下着ってモノは耐久性に乏しいからな。

 修行で着ていたら、すぐにボロボロになるだろうし、そこは賢明な判断と言わざるを得ないか。

 



 それからすぐに自宅に到着。

ニートと化している白亜は別として、胡桃とエリカも先に帰宅していた。

まあ、すでに午後6時を過ぎていたのだから当然と言えば当然だが。

 

「竜道寺、さっさと上がってこい」

「はい。失礼します」


 妙に緊張している竜道寺の腕を掴み玄関口から家の中に連れ込んだあと、リビングへと向かうと白亜がソファーに座っていると、「ご主人様、お帰りなさいませなのじゃ」と、妙に古臭い言い回しをしてくる。

 

「ああ、ただいま。――で、護衛の方は問題ないか?」

「問題ないのじゃ」

「そうか」

「マスター、おかえりなさい。ご飯ができた」

「今日は、胡桃とエリカが作ったのか」

「そう。日本料理」


 短く答えたあと、エリカの視線は竜道寺へと向けられる。

 もちろん、白亜の目も竜道寺へと。

 二人に見つめられた竜道寺は、身じろぎすることなく動きを止める。


「マスター。かなり彼女強くなっている」

「うむ。エリカも感づいたか」


 エリカの物言いに、白亜は頷く。


「まだまだだな。今の状態だと、お前たち二人には勝てないだろうし」

「ご主人様。天狐たる妾、そして神々の力を扱うことが出来て、ご主人様と従属契約を結んでいる妾やエリカに勝てる者は少ないと思うのじゃ」

「例のやつら以外にはか?」


 俺の問いかけに神妙な表情で頷く白亜。

 

「安倍晴明か……。――連中の目的が今一分からないな……」


 実際のところ、安倍晴明の転生体かどうかは知らないが大昔の偉人を殺しにくる当たり、何か事情はあるんだろうが、詳細までは分からない。

 どちらにせよ、しばらく家を空けることになるのだ。

 それなりの防衛を構築しておく必要はあるだろう。



 

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