第730話 感の良い弟子は嫌いだよ

 一切、雨が降らないが草木が枯れることなく存在し続ける空間に入り、すでに1年が経過。

 そんな中で――、


「――よしっ! できたあああああああ」


 そんな声が聞こえてくる中、俺は倒したワイバーンを焼きながらわき目で竜道寺の様子を見る。


「師匠!」

「ふむ」

「どうですか! 合格ですか?」

「そうだな。第一段階は――」


 走りよってきた竜道寺のジャージに手置く。

 そして竜道寺のジャージを構成している布地の原子を鉄を編み込んだものへと変化させる。

 途端に、「ぶべっ!」と、言う声と共に竜道寺は仰向けに倒れた。


「……し、師匠。……い、一体……何を……」

「行っただろう? 第一段階だと」

「……え?」

「これから、少しずつ体に負荷をかけていく。とにかく、しばらくは体に負荷をかけた状態で自由に動けるようになれ」

「わ、分かりました。それで、最終的にはどのくらいの重さまで……。あとは、いまはどのくらいの重さなんですか」

「そうだな。今のジャージの重さは200キロ程度だ。あとは、リストバンドの材質も鉄に変えておく」


 倒れて身動きの倒れない竜道寺の両手両足のリストバンドの重量を、鉄製にした上で重量を各々20キロにする。


「――し、師匠。身動きが取れないのですが……」

「合計で300キロ近い重量だが、このペースなら半年もあれば何とかなる」

「そ、それは普通に、すでに人間ではないのでは……」

「普通の人間のままで、俺の修行を終えられるとでも?」

「――そ、それは……」

「決めたんだろう? お前は――」

「――ッ」

「竜道寺、お前は、お前が守りたいモノを――、この国の市民を――、国民を守るために俺に弟子入りしてまで強くなると」

「……」

「それは嘘なのか?」

「いえ!」

「そうか」


 思わず笑みがこぼれる。


「はい」

「そうか。安心したぞ? それなら、これからの修行にも耐えられるな」

「……その言い方をしたあと、ろくな修行を見たことがないのですが……」

「大丈夫だ。死んでも生き返らせてやるから」

「何が大丈夫なのか分からないです」




 ――半年後。


 ようやく次の課題がクリアできた竜道寺は、草原の上に倒れ込んだ。


「大丈夫なのか? あれは――」

「まぁ、ようやく冒険者ランクで言うのならCランクってところの体力だな。技術は、まったくないが、それはこれからだが……」

「何だか、汝と会話をしていると、別世界で生きてきたような感じを受けるのう」

「さて――」


 伊邪那美と会話をしたあと、俺は立ちあがり、倒れている竜道寺に近づく。


「師匠、俺! 出来ましたよ! 課題をクリア!」

「そうか。よくやったな。それよりも知っているか?」

「何をですか?」

「鉄を構成している原子というのは、どこまでも圧縮できるという事実を」

「――ま、まさか……」


 倒れながら顔色を真っ青にしていく竜道寺。

 察しのいい弟子は嫌いだぞ?


「つまり、理論上はスプーン一杯でも星の重量まで鉄を圧縮することが可能だ」

「も、もう……、筋トレは、この程度でいいのでは?」

「何を言っているんだ? ようやく基礎の基礎の入り口に入ったばかりだというのに。ここからが本当の肉体改造の本番だ。それとも、技術を覚えるためには俺との組手が必要になるが、容赦ない組手を所望か?」

「――い、いえ! 肉体改造を先にお願いします!」

「よし。――なら始めるか」


 まぁ、星と同じ重量だと、流石に無理だという事くらいは分かる。

 200キロずつ増やしていき、とりあえずは体全体で10トン程度の負荷に耐えらえる程度の強度は筋線維に持たせておきたい。

 まぁ、それもこの1年半で限界まで組み替えてはいるが、そろそろ次の段階に進む時だろう。

 

 


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