第725話 さあ、修行の始まりだ! (10)

「……はぁ、お主の弟子は苦労するのう」


 ワイバーンの体を手刀で切り分けていく。

そして胃の中から竜道寺の肉体を取り出す。

取り出した肉片から竜道寺の身体を再生させたところで、俺は伊邪那美の方を見る。


「のう、優斗」

「どうした? 伊邪那美」

「少し気になったのじゃが……、どうして竜の妖の体を丁寧に捌いておったのだ?」

「今日の飯にするからに決まっているからだろう」

「お主は弟子の体を喰った妖の肉を食うのか?」

「当たり前だろう?」


 こいつは何を言っているんだ。

 

「まぁ、伊邪那美が気になるのは分かる。俺たちの住む世界では、竜なんて見たことないからな」

「――妾が数多の神々を産んだ頃には、多くの竜が存在しておった。今は、その数は限られているがのう」

「ほう」


 どうやら、未だに――、現代社会であっても竜というのは存在しているらしい。

 まぁ、白亜みたいに隠れ住んでいるのだろうな。


「――なら問題ないだろう」

「……もうよい」


 何故か知らないが伊邪那美が溜息をつくと空中に手を伸ばしたあと、竜道寺の胸に、その手を当てた。

 途端に――、竜道寺の体が何度か跳ねたあと――、


「うああああああああああああああああああああっ!」


 目をパチッと開けた竜道寺が狂ったかのように叫びながら地面の上を転げると、自身の腹を抑えて胃液を吐いた。


「大丈夫であるか? 娘よ」


 そんな竜道寺の背中を摩りながら、俺へと視線を向けてくる伊邪那美。


「お、おれは生きて……、――で、でも……腹を喰われて――」

「大丈夫じゃ。少し休むとよい」


 伊邪那美が竜道寺の瞼を閉じると共に、その体から力が抜けて崩れ落ちる。


「伊邪那美」

「お主には、言いたい事がある」

「俺にか?」

「うむ。少しは、この娘を労わる行動をとることを考えてほしい」

「娘って、そいつは男だぞ?」

「男であっても、生きながら貪り喰われるという記憶を有しており体験しておるのなら、お主なら記憶操作をして何とか魂が傷つかず再生する事も可能だったのではないのか?」

「可能だが、それだと修行にならないだろう?」

「――は?」

「そいつは俺の弟子だ。――で、モンスターに喰われるという経験も戦闘をする上で、どうなるかを想定し行動する上では体験という意味合いでは重要な経験値になる」

「――ま、まさか……。この子が、ワイバーンに喰われたのは――」

「それはワザとではない」

「……はぁー。誰しもがお主と同じような場所に立てるとは思わぬことだ」

「分かっているぞ? 十分な。だから、時間をかけて鍛えるんだからな」

「これで……?」

「まあな」


 俺は伊邪那美からの批難に近い言葉に肩を竦める。


「それにしても、随分と人間に肩入れをするんだな」

「当たり前じゃ。先ほども伝えたが、日本列島で生きる大和民族は、全て妾の子供。大事にしない理由はなかろう」

「なるほどな。まぁ、時間はあるから、伊邪那美が問題ないと思ったら教えてくれ」


 コクリと頷く伊邪那美。

 そして伊邪那美は口を開く。


「家などは用意できんかのう?」

「必要か?」

「十分は睡眠と、食事は強くなる上での必須なことであろう?」

「それはそうか」


 俺は地面に手をつき、原子を操作し、一件家を作り出す。


「……お主、器用だのう」

「まぁな」


 人間が4人暮らせる程度の家を大草原の真ん中で作ったところで、家の中の家具をも作っていく。

 全てが終わったところで外に戻ると、竜道寺の膝枕している伊邪那美の姿が目に入った。

 その様子は、まるで母親と子供と言った感じに見える。


「随分と手際というか手慣れているな」

「当たり前じゃ。妾が、どれだけの子らを育ててきたと思うとる。それよりも出来たのか?」

「まぁな」

「そう……」


 伊邪那美は、膝枕していた竜道寺の体を持ち上げると、俺が作り上げた家へと入っていく。

 それからしばらくしても、外に出て来なかったので家に入れば、4部屋の内の一室に竜道寺を寝かせたまま、その様子をジッと見ながら手を繋いでいる伊邪那美の姿が。


「何をしているんだ?」

「魂の修復をしておる。それよりも、この者、かなり魂をすり減らしておるが何かあったのか?」

「すり減らして? そういうのも分かるのか」


 伊邪那美は俺の問いかけに呆れるような表情を見せたあと、「今日は一日寝かせておきたい」と伊邪那美は提案してきた。

 



 

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