第611話 第三者Side

「落ち着きなさい。峯山純也」

「――ッ!?」


 視野が狭まっていたのか、峯山は天野桔梗に声を掛けられてようやく彼女が居ることに気が付く。


「……天野さん」

「桔梗でいいわよ。それよりも、いまの感覚の衰えた人間に、霊力の波動を感じろというのは無理があるわ。少しは、霊能力者として一般人とは違うという事を理解しなさい」

「……分かりました」

「そう。分かってくれたのならいいわ。それよりも、今後のことを話しましょう」

「今後のこと? この気配に対する対応ということですか?」

「――いえ。これだけの気配だもの。私はともかく力を使いこなすどころか、戦闘すらまともにしたことがない貴方が現地に行っても邪魔になるだけだわ」

「それは……」

「大丈夫よ。幸い、この地には強力な霊能力者が数人いるから。それに――、アレもいるから」

「アレ?」

「桂木優斗よ」

「それは……」

「だから、貴方は自分が出来ることをしなさい」

「――ッ!?」


 戦力外通告だと遠回しに桔梗に宣告された純也は歯を食いしばり俯く。

 そのころ、千葉駅近くでライブ準備をしていた伊邪那美は、2階事務所の窓を開けると千葉城の方へと険しい表情で視線を向けた。


「どうかしたのか? いきなり窓を開けて」


 ライブの衣装合わせをしていた伊邪那美がいきなり事務所の窓を開けた事に首を傾げながら山崎は伊邪那美に話しかけた。


「……幸太郎。どうやら、今日のライブは中止にしなくてはいけないようじゃぞ」

「ライブを中止? そりゃまずいだろ……何かあったのか? 旦那絡みか?」


 山崎幸太郎が、ライブを中止だと言い切った伊邪那美に軽口を叩くが、真剣な表情を崩さない伊邪那美の様子に、何があったのかすぐに思い立った山崎が考えたことを吐露するが、伊邪那美は頭を左右に振る。


「桂木優斗は、直接は関わってはおらぬようじゃ。じゃが、問題は神楽坂都の方だという事じゃ」

「そいつは……」


 一瞬で、山崎は顔色を変える。

 桂木優斗という少年の本質を一番理解していると言っても過言ではない男――、西千葉新聞の記者でもある山崎幸太郎。

 彼は、神楽坂都を助けるという名目だけで、たった一人で黄泉の国に行った少年を知っていた。

 そして、その気質も。

 

「やばいんじゃないのか?」

「うむ。攻めてきたのは来訪者であるか……。じゃが、姫巫女から情報を得ているはずの来訪者がどうして愚策を取るのじゃ?」

「姫巫女? 来訪者? どういうことだ?」

「うむ……。それよりも幸太郎」

「どうした?」

「神社庁に向かう」

「神社庁に? 千葉のか?」

「――いや。京都の本院じゃ」

「本院って……、神社庁の総本山か?」

「うむ。すぐに支度を――」


 山崎と会話をしていた伊邪那美が途中で言葉を閉じると同時に事務所の隅へと視線を向けた。

 

「最近の異世界者は、礼儀を知らんようじゃな」


 何もない空間に声をかける伊邪那美。

 彼女の向けている視線の先――、そこには何もなかったが、突然に空間が歪むと身長2メートルほどの骸骨が姿を見せた。


「これは、失礼しました」


 骸骨は、最初は骨だけであったが、空間からローブを取り出し羽織ると頭を下げる。


「私は、魔王軍四天王の一人イシス様に仕えるアンデット、リッチのステイと申します」

「命。魔王軍ってなんだ?」


 いきなりの事に話についていけない山崎は伊邪那美の傍に近づくと彼女に耳打ちする。


「さてな」


 伊邪那美も魔王軍という存在に心当たりがなかった事から目の前のリッチに対して最大限の警戒を向けている。


「この国の本物の神であるアナタには、今回の騒動に関与してほしくないのです」

「本物であるか……」


 伊邪那美は、目の前のアンデットを見つめた。



 


 


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