第401話

「――べ、別に、そういうつもりで言った訳ではないわよ」


 こいつ、どう考えても俺のことを馬鹿にしているとしか思えない行動をとったんだが?

 まったく――、警察に引き渡すつもりじゃなかったら、ぶっ殺しているところだ。

 



 しばらくして、黒塗りのハイエースが施設のゲートに突っ込んでくると、施設内で急停止する。

 

「当主様!」

「村瀬か。そっちは異常はないか?」

「はい。それよりも――」


 村瀬が、俺が救出した失踪者を見て――、そして……その視線は桔梗に向けられたところで止まる。


「彼女が例の?」

「ああ。分かるのか?」

「もちろんです。かなり強力な神と契約していますね。ただ、休眠期に入っているようですが……。それで事件は解決したとみていいのですか?」

「まぁ、やることはやったって感じだな」


 肩を竦めながら答える。

 そんな俺達を、憔悴しきった目で見てくる保護した失踪者達。

 その目には、疑いの色が見て取れる。

 その気持ちはわからんでもない。 

 なにせ村瀬は、ダークスーツ姿。

 俺は軍用装備をしているから、どう見ても警察には見えないだろう。


「桂木優斗警視監!」

「立花警視監も来ていたのか?」

「はい、当主様。目覚めた立花警視監も一緒に同行する形となってしまいましたが、問題でしたでしょうか?」

「――いや、別に問題ない。それよりも目が覚めたんだな」

「お・か・げ・さ・ま・でな」

「何か棘のあるような言い方をしてくるが、俺は事件の解決を円滑に進める為に行動しただけで、お前に恨まれるような事はした事がないが?」

「――ッ!」


 やれやれ、沸点の低いやつだ。


「村瀬、お前の携帯繋がらないぞ。警察に電話しようにも電波が立ってない」

「当主様、そのことですが――」

「お前達は、少しは私の話を聞くという耳を持たないのか! これでも公安から来てるんだぞ!」

「優斗君」

「どうかしたのか?」


 俺と、村瀬、立花が会話をしていたところで、都の親父が俺の名を呼んできた。


「君は、さっきから警視監と呼ばれていたが……」

「ああ。身分は警視監だからな」


 そんな俺の言葉に、救出し保護していた失踪者達から安堵の溜息が聞こえてきた。

 どうやら、俺が警察官だという証言は、あまり信用されてはいなかったようだ。


「そ、そうなのか……。それで、当主と言うのは?」

「それについては説明する義務はないな」

「……それは保護者である私にもか?」

「そうだ」


 俺は短く答える。

 日本政府としても超常現象関係の事件については民間には知られたくないようだし、俺も都の関係者には伝えるのは躊躇してしまうからな。

 何しろ、伊邪那美の件もあることだし。


「私の話を聞け!」

「何だよ? 立花警視監」

「だから!」

「さっさと言えよ。時間が、もったいない。それにしても警察官が到着するのが遅いよな」

「当主様」

「どうした?」

「そのことですが、少し此方に――」

「ん?」


 もったいつけるような素振りを見せる村瀬と一緒に保護した失踪者達から、俺と村瀬と立花は離れ車の中へと移動する。

 中は防音なので、扉を閉めれば声は聞こえない。


「それで、こんなところで話すということは何か問題でも起きているのか?」

「はい。じつは、諏訪市全域にファイアーセールが行われていると日本国政府から連絡がありました」


 聞き慣れない言葉だな。

 ファイアーウォールの魔法なら知っているが……。


 

 


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