第382話 第三者side

 連続的に鳴り響く銃声が、集音マイクを通して警備室内に居た辻本と、その配下の信者達に聞こえてくるが、誰一人、モニターの画面から目を逸らす者はいなかった。


 ――否、逸らせるような光景が存在していなかったと言った方がいいだろうか。


 辻本を含めて男達が望んでいたのは銃弾の嵐により血塗れになる少年の姿であった。

 だが、実際には――、見ているモニターの映像に映り込んでいたのは、銃弾を両手で受け止める少年の姿だった。


「ば、ばかな……。――す、素手で受け止めているというのか? 銃弾を? 一体、何をしていれば、あんな真似が……」


 5人の警備が少年に向けて撃っている拳銃は、中国のマフィアから大量に仕入れたトカレフであったが、それらの銃弾を素手で受け止め、素手で弾く姿は警備の人間からしたら異様な光景の一言でしかなかった。


「――に、人数だ! 人数を集めろ!」

「大僧正様。これ以上の発砲音は、麓まで聞こえる可能性が――」

「煩い! お前達は、アレを見て何とも思わないのか! 銃弾を素手で弾くような人間が、まともな訳がない!」


 辻本の頭の中に浮かんだのは神社庁が、自分達と同じ生体兵器を既に完成させていて、それを実践投入してきたのでは? と、いう考えであった。


「――と、とにかく時間を稼げ! 何のために、大阪最大の暴力団組織、奇襲組に莫大な金を払って警護をさせていたのか分からないだろうが!」


 辻本に首を掴まれ壁に叩きつけられた信者は、震える声で「わ、わかりました」と、壊れた機械のように首肯する。

 それに満足したのか――、


「ちっ――。どうしたものか……」


 親指の爪を齧りながら、思考を巡らす辻本はモニターの一つを見て笑みを浮かべる。


「おい。集会所には生きてる人間がいるはずだ。それを囮に使ってキョンシーを、この化け物にぶつけろ」

「――え?」


 辻本の命令に、目を躍らせる警備室の男達。


「良いからさっさとやれ! 信者達を、この男迄誘導すれば、足を止められるはずだ。曲りなりにも警察を名乗っているんだからな。キョンシーが生きた人間を捕食するのは、私も知っている。だから、守るためにキョンシーと戦わせて時間を稼げ!」

「――で、ですが、それでは集会所で生きていた信者達が……」

「煩い! 数百人が犠牲になったところで、神さえ作れば、あの程度の――」


 少年を憎々しい目で見る。


「あの程度の化物なら倒せる! そうすれば、我らの悲願も達成できる! そもそも、あと30分でガス配管を通して諏訪市全域にサリンが撒かれることになる。そうなれば数万人が死ぬことになるからな。数百人程度、誤差の範囲でしかない!」

「……わ、わかりました」

「とにかく時間を稼げ! どんな手を使ってもな!」


 警備室の男達の答えを聞く前に、辻本は、床に寝かせていた女性を抱き上げると警備室から出て、地下の大空洞へと向かった。





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