第371話

 村瀬から携帯を受け取る。


「桂木警視監ですか?」

「ああ、俺だ。急用か?」

「はい。緊急報告です。公安から、長野県警から引き受けた仕事から手を引くようにと連絡がありました」

「公安から? そういえば、ここにも立花っていう公安から来た奴がいるな」

「立花? 立花劉ですか?」

「知っているのか?」

「立花劉、警視庁公安部の本部長です。――ですが、どうして彼のようなトップに近い人間が現場に……」


 その神谷の呟きに、


「つまり公安が、今回の件に絡んできているという事は、何か意図があって動いているということか?」

「そう考えるのが自然かと」

「だが、すでに事態は深刻な状況になっているんだぞ? 他国の兵隊までもが足を踏み入れている。そんな状況で、戦闘については素人が首を突っ込めばどういう事態になるのかくらいは火を見るよりも明らかだろう? それに、一度、受けたクエストは完遂するというのが、俺の冒険者としての矜持だからな」

「――ですが、それだと公安に目を付けられることになります。何より監察官が、こちらを追求してくる可能性があります」

「勝手にやらせておけばいい」

「――ですが……。警視監としての立場も危うくなります」

「別に身分はどうでもいい」

「――え?」

「今は、事件の早期解決が重要だ。そもそも、不死者どころか他国の軍隊が介入してきているだけでなく、生物兵器が存在している時点で、すぐに解決しないと次の犠牲者が出るくらいは、少し考えれば分かるだろう?」

「それは分かっていますが……。公安も何か――」

「公安は、自分達が何をするのか? どういう目的があるのか? を、こちらに情報を流してきたのか?」

「――いえ。それはありません」


 なら、答えは決まっている。

 相手が何の情報も開示しないのなら相手にするなど時間の無駄。

 それなら次の犠牲者が出る前に、事件を解決すること。

 犠牲者を出さないという目的が決まったのなら、あとは、そのために動くだけだ。

 事件の解決の為なら、身分や役職なぞ、俺にはどうでいいこと。


「神谷」

「――は、はい?」

「俺には連絡はしたが、跳ね除けられたと公安には回答しておけ。責任は、全て責任者の俺が取る」

「分かりました。それと、もう一つ――」

「まだ何かあるのか?」

「太陽光パネルの設置をしていた作業員23人が、先ほど山中で行方不明になったとの報告が入ってきました」

「入って来た?」

「はい。長野県警からですが――」

「そうか……。だが、どうして俺に言ったんだ?」

「それが……、行方不明になった太陽光パネルの業者の中に桂木警視監のお知り合いがいたからです」

「それは……」


 そこで俺は思い出す。

 たしか――。


「神楽坂グループの社長、神楽坂修二氏が行方不明リストに入っていました」




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