第359話
都築警視正に案内された席へと向かっていた所で、神経質そうな眼鏡をかけた40代後半の男が都築警視正の前で立ち止まる。
「彼は? ここは部外者が立ち入って良い場所ではないぞ? 都築君」
アイロンがしっかりと掛けられたグレーのスーツを着込んだ男が、俺の方を睨みつけてくる。
「立花警視監。彼は、今回の連続行方不明の事件に協力してくれるために応援としてきてくれた桂木警視監です」
「――なに? どういうことだ? 君、年齢は?」
「16だが? それが、何か問題でもあるのか?」
「16歳で警視監だ……と……? そんな話は聞いていないが……」
「桂木警視監は千葉県警察本部から来られた方です。桂木警視監、こちらは――」
「いい。私から説明する」
都築警視正の言葉を遮り、俺へと鋭い視線を向けてくる。
「立花(たちばな) 劉(りゅう)だ。警視庁公安部、本部長をしている」
「公安部?」
「そうだ。だが、君のような若者が、どうやって警視監に……、身分証明書などは持っているのか?」
「――ん? ああ」
俺は警察手帳を取り出す。
「桂木優斗……、まさか!」
「どうかしたのか?」
「――い、いや……何でもない……」
一瞬、取り乱す男に俺は首を傾げつつ立花が返して来た警察手帳を受け取る。
「……し、しかし……、桂木警視監。君のような人間が、わざわざ出向くような事件ではないと思うのだが?」
「依頼だからな。仕方ないだろ」
俺は肩を竦めながら答える。
「――だ、だが……、君は病院の経営もあるんじゃないのか? ここは、我々、警察組織だけでも何とかなる」
「いや、もう受けた依頼は完遂するのが冒険者としての矜持だからな。自分の予定が推しているからと言って帰ったら、それは冒険者として問題だろう?」
「――ッ!」
「それとも俺が居ると何か不味いのか?」
「――そ、そんなことはない! そんなことはないぞ! ただ、病院を経営するのなら、早めに対応をとった方がいいのでは? と、思っただけだ。このような事件に、君のような優秀な人材が出向くなと国家の損失だからな」
その言葉に、俺は溜息をつく。
「受けた依頼は受けた依頼として確実に完遂する。そして依頼に大きいも小さいもない。それだけのことだ」
「……ちっ」
今、舌打ちされたぞ。
やっぱ、年齢が16歳だと馬鹿にされるのか。
まぁ、実際に異世界でもよくあったことだからな。
「もういいか? 事件の内容を聞いて、俺も対策を取りたいからな」
「あ、ああ……。もちろんだ。都築署長」
「何でしょうか? 立花警視監」
「桂木警視監への説明と事件が起きた現場への案内と説明については公安が対応したいと思うのだが、問題はないな?」
「分かりました」
「それでは、桂木警視監。事件の概要については、私の方から説明させていただきますので」
「――いや、必要ない。それよりも大勢の意見が聞ける会議室であるこの場で情報が欲しい」
「――ッ!?」
「何か?」
「い、いえ……。そ、それよりも、本当に事件について対応されるので?」
「約束は約束だからな」
ずいぶんと食い下がってくるな。
そんなに俺が病院を経営する事に対して負担をかけさせたくないのか?
「まぁ、大船に乗ったつもりで構えておいてくれ」
「分かりました……」
俺の言葉に納得いかない表情で立花は頷いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます