第321話

 千葉駅行きのバス停に到着するや否や、バス停でバスを待っていた都が駆け寄ってくる。


「優斗っ! おはよっ!」

「――あ、ああ……おはよう」


 おい、都の親父! どうなっている? 普通に、あんたの娘が俺に話しかけてきているんだが!?


「どうしたの? 優斗」

「――いや、何でもない。それより、都は親父さんから何か言われなかったのか?」

「どうしてお父さんが出てくるの?」

「何も無ければ別にいいんだが……、ちょっと変な夢を見てな……」

「夢って、どんな夢?」

「ちょっと、ここだと人が多いからな」


 バス停には、朝7時半と言う事もあり、何人もの学生やスーツ姿の社会人がいるので、内容を説明するのは止した方がいいだろうと、俺は判断する。


「分かった。お昼になったら屋上でね!」

「そうだな」


 そのあとは、何事もなく学校に到着し、意味不明な授業を受けて昼になる。

 屋上に到着すると、誰一人、いない。


「都は、まだか……」


 都が来る間、購買部で購入したパンを牛乳で流し込んだあと、彼女が来るのを待つ。

 しばらく待っていると、階段を上がってくる音が聞こえてくる。

 そして――、開かれる屋上と校舎内に繋がっている扉。


「優斗、遅れてごめんなさい」

「――いや、何かあったのか?」

「中々、グループから抜け出せなくて」

「なるほど……」


 都にも付き合いというのは、あるからな。


「本当に、ごめんなさい」

「気にする必要はない。そもそも話を最初に振ったのは俺からだからな」

「ありがと……」


 都は、申し訳なさそうに、俺が肘をかけているフェンスの横まで移動してくると――、


「それで、夢で見た内容だっけ? どんな夢だったの?」

「そうだな……。都の父親の修二さんが、都に対して、俺と付き合うなとか、そんな夢だったな。異世界だと、夢が危険を知らせてくれることもあったからな。それで、少し聞いてみようと思っただけだ。決して! 他意はない」

「つまり、優斗は、私と付き合えなくなることに危機感を抱いたと……?」

 

 ――ん? どうして、そういう話になるんだ?


「そういうことね! そしたら、私は、実家を捨てるから大丈夫っ! 優斗に、面倒みてもらうから!」

「実家を捨てるって……」

「文字通りの意味よ? たとえば優斗が、目の前から居なくなったら、私は、どこまでも付いていくし、絶対に逃がさないから!」

「……」


 都の語りが進む。

 そして話が続いていくと少しずつ、その目からハイライトが消えていく。


「大丈夫。私、こう見えてもお小遣いをFXとか投資で、増やしているから。そこそこ、お金もっているから。だから、親を捨てても大丈夫だから! だから一生――」

「待て待て!」


 俺は都の両肩を掴んで揺さぶる。


「はっ!」

「少し落ち着け」

「私は落ち着いているけど……、でも大丈夫! お父さんが、交際を認めなかったら絶縁するから」

「そ、そうか……」



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