第320話

「20代の大学生が3人と、行方不明の捜索をしていた警察官が14人行方不明か……」

「これって、普通にありえるの?」

「俺は、こっちの世界の捜索隊がどう組まれるのか知らないから分からん」


 山間部の捜索なんて、こっちの世界ではした事がないからな。


「そうなんだ……」


 なんだかがっかりしたような感じを妹が見せるが、分からないことは分からないとしか言いようがない。


「ただし、捜索隊が纏めて行方不明になるのは謎だよな……」

「うん、今までいろんなニュース見て来たけど、捜索隊の人が行方不明になったってニュース、胡桃は見た事無いの」

「だよな……」

「ねえ、お兄ちゃん」

「どうした?」

「お兄ちゃんが冒険者していた異世界だと、どうだったの?」

「どうだったとは? 行方不明者の捜索についてか?」

「うん」

「そうだな……、基本的に山間部に入るような奴はモンスターの巣に踏み入れるようなモノだからな……。そんなことは、滅多になかったな」

「滅多になったってことは、少しはあったの?」


 まぁ、あったと言えばあったが……。

 俺の話に妹は興味津々と言った様子で、目をキラキラさせて此方を見て来ている。

 もちろん、白亜もエリカも同じく。

 

「異世界の話、マスター、いろいろと教えてほしい」

「妾も、妖の世界や、神域に足を踏み入れたことはあるが、異世界についての話はとんと聞かぬからな! ぜひ、聞きたいのじゃ!」


「あまり、聞いていいものじゃないぞ?」

「それでもいいの!」

「もちろんじゃ!」

「マスター、勉学は大事」

「はぁー。わかった……。異世界では山賊や盗賊というのが存在していたんだ」

「昔は、よくあったのじゃ」


 白亜の時間的感覚から、昔と言われても困るんだが……。


「昔って何時頃なの?」


 ほら、妹が気になったじゃないか。


「うむ。そうであるな……。妾が、最初に山賊共を認識したのは、蘆名(あしな) 盛隆(もりたか)が、喜多方市周辺の領主をしていた頃なのじゃ」

「領主?」

「そうじゃ。簡単に言うなら土地を治める貴族と言ったところじゃ」

「ううん。そうじゃなくて――」


 戸惑っている妹を他所に、俺はスマートフォンで名前を検索していく。


「白亜。500年近く前の話をされても混乱するだけだぞ」

「そうか。もう、あれから500年も……」

「とりあえずだ。話しを戻すぞ? 異世界では、盗賊に攫われたとか、魔物に苗床として女性が魔物に連れていかれたとか、そういう連中を救う為に依頼が出ることはあった」

「へー。お兄ちゃんも冒険者していたから仕事を受けたりしたの?」

「時々な。それよりも、そろそろ用意しないと学校に遅れるぞ?」

「――あっ!」


 妹は慌てて朝食を摂ったあと、制服に着替えて玄関へと向かう。


「それじゃ、お兄ちゃん! 行って来るね!」

「ああ、いってらっしゃい」


 ドアが閉まったところで――、


「エリカ」

「マスター、分かっている」


 すでにエリカも着替えを終えており、妹を追うようにして家から出て行った。


「――さて、白亜」

「ご主人様。先ほどは意図的に話を――」

「みなまで言うな。人の生死に関する生々しい話を妹に聞かせる訳にはいかないだろ」

「さようでございますか」

「それより、白亜」

「何なので?」

「今日から、都の護衛を任せた」

「分かりましたのじゃ」

「何かあれば、すぐに俺のところまで連絡を寄こしてくれ」


 コクリと頷いた白亜は、存在が希薄となっていき空間に溶け込むと室内に微風が吹く。


「風と同じ速度で移動できるようになったと言っていたが、本当だとはな」


 食器を運び、洗いながら俺はポツリと呟いた。




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