第311話
翌日、エリカに妹の護衛を任せたあと、俺は自宅を出て公団住宅の階段を降りたところで、都が制服を着て待っていた。
「都、昨日は悪かったな」
「ううん。お父さんも悪かったから。それよりも、一緒に学校にいこっ」
「そうだな……」
二人して、歩き出す。
さすがに、昨日の今日と言う事もあり、気まずいと思っていたが、思っていたよりも都の対応は普通というか……。
――いや、俺の自宅に態々、足を運ぶ時点で普通ではないな。
「なぁ、都」
「何?」
「今日は、どうして自宅まで来たんだ? どう考えてもバス停を超えているから、時間の無駄だろう?」
「えっとね。優斗が気にしているって思ったから……」
「親父さんとの模擬試合のことか」
「うん……」
俺の質問に都が素直に頷く。
まぁ、都からしたら肉親を俺が傷つけたのと同じことだからな。
思う所があっても仕方ないとは腹を括っている。
それでも、喧嘩を売られた以上は、仕方ないとは気持ちの整理はつけている。
「ねえ、優斗だったら怪我をさせずに勝つ事も出来たんじゃないの?」
やっぱり、そのことを聞いてきたか。
たしかに寸止めで倒すことは可能だったが、それは俺の主義に反する。
「出来たかも知れないが、喧嘩ってのは痛い目を見ないと実力差ってのは、本当の意味では理解しないものだからな。だから、俺は、喧嘩を売られたら手加減はするが、相手を無傷で何とかするような真似はしない」
「それって、痛みを伴わないと人は学習しないって優斗は思っているってこと?」
瞳を揺らしながら、語り掛けてくる都に俺は頷く。
「人間は知識だけじゃ、物事の本質を理解するような事はないからな。痛みを供だって、ようやく理解する」
「――でも言葉で説明すれば……」
「俺が居た世界は、言葉で解決できるほど――」
「あっ――」
途中まで言いかけたところで、都が『しまった』みたいな表情を見せる。
俺が異世界に召喚されて戦ってきたということから、世界の在り方が違うという事を、都なりに理解したのかも知れない。
「悪いな……」
「ううん。優斗が、悪いわけじゃないから。ごめんなさい」
「――いや、謝罪する必要はない」
何とか場を治めようと口にしたところで、俺は、ようやく……ようやく気が付く。
都の考え方は、この世界を主軸とした考え方だ。
それとは俺の考え方はまったく違う。
俺は人間というのは、まったく信じてない。
人間と言う存在は、どこまでも救いようの無い身勝手で傲慢で、一方的な正義に酔いしれ他者を踏みつぶすことに対して何の感慨も抱かないどころか愉悦し快楽を覚える獣だと思っている。
俺が、人間は性悪説だと考えているとすると都は、人という存在は性善説だと信じているに違いない。
――そう。根本的に、俺と都では思考の組み立て方に齟齬がある。なら……。
「でも、お父さんが迷惑をかけたのも事実だから……」
「――いや、俺の方こそ悪かったな」
「優斗は何も悪くないから! ――で、でも、少し……、もう少し加減して欲しかったなって……、だって! 優斗は強いから」
「…………そうだな」
――そう、俺は強い。
一般人から見たら、遥かに強い。
だが、それだけだ……。
「今度から気を付ける」
「うん。だから、優斗」
「ん?」
「何か困ったことがあったら私に言って欲しいの! 優斗、異世界から戻ってきて、色々と常識とか、そういうのも違ったりするでしょ? 私が、教えてあげるから! 頼ってほしいの!」
そんな都の申し出に俺は、「そうだな」と、答えて彼女と一緒にバス停へと向かった。
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