第295話 第三者Side
桂木優斗が、屋上で白亜たちと会話をしていた頃――、桂木家のリビングで対面していた神楽坂都と、桂木胡桃。
二人は、桂木優斗が、家を出てドアが閉まってから一言も話さずに桂木優斗が話した内容を互いに整理していた。
「あの……都さん」
最初に口を開いたのは、優斗の妹である胡桃からであった。
深刻そうな呟きに近い問いかけに――、
「――ど、どうしたの? 胡桃ちゃん?」
心の準備が出来ていない都は、慌てた様子で返事をする。
胡桃と違って、心の準備――、整理が上手く出来ていなかった理由は、昔から繰り返し見ていて、最近では連日に近い感覚で見る夢の内容が関係していた。
「都さんは、お兄ちゃんの話、どう思いますか?」
「どう思うって……。異世界に召喚されたのは、本当だと思うわ」
それは確信を持った言葉。
そして――、それに同意するかのように胡桃は頷く。
胡桃としても、安倍珠江に襲われた恐怖の記憶がある事から、夢ではないというのは理解していた。
そんな彼女たちを救った優斗と、異常な力を人ではない存在を操る純也。
二人を見た都としても、頷いた胡桃の気持ちを察することは容易であった。
「私も、お兄ちゃんが異世界に召喚されたのは本当だと思います。ただ――、お兄ちゃんは嘘をついていると思います」
「そうね……」
二人とも、優斗の説明にはまったくと言っていい程納得していなかった。
「だって、都さん。普通、勇者として召喚されたのなら、魔王を倒す為に召喚されたのなら、不思議な力を与えられるはずですよね? それなのに、お兄ちゃんは、異世界御用達と言っていい魔法を使えないって言っていました。これって、明らかに変だと思います」
「ええ、そうね。しかも優斗は、身体強化について科学的な根拠を土台にして、まるで自分で組んでいったみたいに説明していたもの。たぶん、優斗は、異世界に召喚された時に、何の力も与えられていないと思うの」
「何の力も?」
都の言葉に胡桃は、目をパチクリとさせる。
「たぶんね……。胡桃ちゃんも知っているでしょ? 優斗は、しょうもない時にしょうもない嘘をつくって――。たぶん、優斗は私達に心配かけないようにと、適当な嘘をついていると思うのよね」
「ですよねー。……でも」
同意した胡桃が、途中で深く溜息をつく。
「たぶん、お兄ちゃんが人を殺したことがあるっていうのは本当だと思います。そうじゃないと、他人に対して甘かったお兄ちゃんが、あそこまで考えが代るような事はないと思います」
「そうね。それについては――、私も……思うところがあるわ」
都は、自身の夢の中で見た優斗と、自分自身が召喚された場面を思い出しながら呟く。
彼女としては、もし――、自身が見た夢の中で起きた出来事が本当ならと……、胸の詰まる思いを持っていた。
何せ、優斗は異世界の人間に最終的には裏切られて殺されかけた場面を夢の中で見たからであった。
「都さん?」
「――いえ。何でもないわ」
口を噤む都は、頭を振るい思い出した夢の中の出来事を払うように口を開く。
「とりあえず優斗は、私達に話した内容で説明できたと思っているはずだから、話を合わせましょう」
「分かりました。たぶん、お兄ちゃんは異世界で辛い思いをしてきたと思うし」
「そうね」
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