第293話
「ご主人様と、契約を交わしただけだ」
「契約?」
「うむ。よくお主たちも行うであろう? 神の力を行使する際に、事前に神との契約を行うような真似を。それと同じである」
「師匠と契約しただけで……、それだけの力を……」
ゴクリと、アディールが唾を呑み込む音が聞こえてくるが――、
「アディール。主の力は、強大であるからして人間が直接契約を結ぶことは叶わぬぞ? 妾でも、ギリギリであったからな。それに何より、狐は昔から神使としての役目を承る事もあるほど、理に沿った存在であるからな。人間とは根幹が違うのだ」
「そう……」
「だが! 天狐としての領域に足を踏み込んだ妾と契約を交わせば、枝葉としてご主人様の力の一部を受け取ることが出来るやもしれぬ」
「それなら大丈夫?」
「うむ。アディールの霊力でも、何とかギリギリ耐えられるレベルであろうな」
「おい、へんなセールストークをするのはやめておけ」
「ご主人様。アディールは、目的があってご主人様のところに弟子入りしたのだろう? ならば、そのために力を貸してやるのは、ご主人様の妻として当然のことなのだ!」
「はぁー。もう好きにしてくれ。アディール、無理はしなくていいからな」
「分かった」
立ち上がるアディールは、決心した表情で――、
「白亜と契約する」
「うむ。それでは、アディールは、妾に仕える巫女として――、そしてご主人様の巫女としても、仕えるという事でよいかの?」
「もちろん」
白亜の指先が、アディールの額に触れると、アディールの金髪の一部が白銀へと変わる。
「これは、すごい……」
変化が終ると共に、アディールは自身の両手を何度も開き握りしめ一人呟いたあと、俺の方へと視線を向けてくる。
「師匠」
「どうしたんだ?」
「これから、師匠ではなくマスターと呼びたい」
「どうしてだ?」
「師匠と弟子の関係ではないから。力をダイレクトに渡されているから。それは、私がユートの式神になったのと同じだから」
「だからマスターなのか?」
「そう。駄目なら、ご主人様でも、主様でも、ユート様でもいい」
「とりあえず、ご主人様と主様とユート様呼びは止めてくれ。妹と都に聞かれたらへんに思われるからな。それに対外的にも、お前は11歳だからな。そんな幼女に、変な呼び方されたらネットで晒されて大変なことになる」
「分かった。マスター」
「ユートじゃダメなのか?」
「それだと、感謝の気持ちが伝わらない」
「まぁ、良いではないか。ご主人様。あと数年、すれば、アディールもハーレムの一員になるのだから」
「お前はな――」
「痛いっ! 痛いのだっ! 頭が割れ――」
白亜の両手で掴み力を入れていく。
「とりあえず、人前ではユートにしてくれ。それ以外なら自由にすればいい」
「分かった。マスター」
それにしても、俺の力の影響を受けたのか、アディールの金髪碧眼だった様相は、銀髪赤眼へと変化していて、肌の白さも相まって一目では妖精と思われてもおかしくないだろう。
「それにしても……。ずいぶんと霊力が上がったようじゃの」
俺が手を離したところで、痛みに耐えながらも白亜が呟く。
「うん。たぶん10倍以上、霊力の最大値が上がったと思う」
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