第272話
「まぁ、たしかに自身の立場をどう決めるかは本人ではなく第三者だからな……」
そこは、俺も同感だ。
異世界で、俺は俺の為だけに戦ってきたが、結果的に英雄として祭り上げられた。
それは、何よりも冒険者ギルドの仲間達の力添えも大きいと言える。
――だが……。
「俺は、臨時的に警視監という立場を受けているだけに限らない。国家に忠誠を誓っている訳でもない。だから参加するつもりはない」
「桂木警視監。日本は、現在は非常に微妙な立場に置かれているという事を知らない訳ではないだろう?」
「どういうことだ?」
「先の大戦。ロシアがウクライナに侵略した後、起きた戦争によりインド・中国・ロシア・北朝鮮・韓国は、日本やEU、アメリカとの間に軋轢が発生している。それにより空と海における国境線沿いで度重なる侵入を行ってきている。だが――、君が出現したことで、アメリカが発表した反物質の反応。それが君との関連性が見られてから、隣国は手出しをしてきていない。これが、どういう意味を持つのか分かっているかね?」
「つまり、力を誇示したから敵対国家がビビッて手を出してこなくなったってことか?」
「そのとおりだ。それに、今回、アメリカの衛星が捉えたコレだ」
外務大臣は、スーツの懐から写真を取り出す。
受け取り目を通せば、そこには姿が全盛期には劣るが、修行中だった俺の姿が映っている。
どうやら、本当にリアネデイラとアクセスが一時的にとは言え繋がってしまったようだな。
「桂木警視監が、姿を変えたあと何かしらをしてこぶ山付近の山々を消し飛ばしたのをアメリカの軍事衛星が捉えていた。」
「なるほど……」
たしかに写真には、『魔光閃弾』を放った俺の映像がシッカリと映っている。
――『魔光閃弾』、原理は簡単で膨大な生体電流と存在力で作りだした原子を反転させた上で反物質化させ、それを光の速度に近い速さで打ち出すだけの質量兵器。
「これを見て各国は、君の危険性を再認識したと同時に――」
「俺が日本政府の管轄にある事を知って驚いたってところか」
「そうなる。とくに反物質を人間サイズが任意で行えるのなら、その価値は果てしない。エネルギー問題も解決するからな」
「それは夢みたいな話で結構だ」
俺は肩を竦めながら答える。
「だから、君には、この国を守るために日本政府が管理出来ているという意図を諸外国に意を示すためにぜひともG20 の会議に参加してもらいたいのだ」
「無理だな」
「どうしてだ?」
「決まっている。何度も言っているが、俺は俺の為に戦っているのであって、誰か他人のために戦っている訳ではない。それに――」
「それに?」
「――いや、何でもない」
俺は自身の手を見る。
何ともない自身の手。
だが、俺の手は血に塗れている――、否――、血に染まり過ぎている。
一般的な人間の感覚で言えば、俺は化け物だ。
それ以上でも、それ以下でもない。
「とにかくだ。顔を出してくれるだけでいい」
「それなら、俺が国防を預かっているということで尖閣諸島と、竹島と北方領土と樺太を俺名義にしておいてくれるだけでいいぞ」
「どういうことかね?」
「だから、俺に日本国政府として譲渡しておいてくれれば、住んでいる連中を駆逐しておくと言っているんだ。俺の領土なら、俺が守るのは当然だろう?」
「駆逐……?」
「ああ。駆逐だ」
「待ってくれ。樺太だけでも20万人近い人間が住んでいるんだぞ?」
俺は、その言葉に首を傾げる。
コイツは何を言っているんだ? と――。
「たった20万人を処分するだけでいいんだろ? それで国家の安全性が保てるなら安いものだろ。気は確かか?」
俺の言葉に顔色を青くする外務大臣。
そんなに俺は変なことを言ったか?
異世界では、その程度のことは常識であったが?
「……君は、――いや……、桂木警視監は人をどのような目で見ているのだ?」
「何を言っているんだ?」
本当に分からない奴だな。
人間なんて、どうでもいい存在だろうが――。
俺を裏切った人間は――、生かす価値も存在している価値もない――、ただ……、無暗に殺す気もない。
俺が守りたいのは――、本当に守りたいのは……、一人だけだ。
「どうでもいいと思っているな」
「……なるほど。すまなかったね。時間をとらせてしまって」
「もういいのか?」
顔色が悪いというか、俺が語り掛けただけで体を震わせた外務大臣は、急いで立ち上がると病室から出ていく。
「――あ、ああ。と、とりあえず……、今回の話は無かった事にしてくれたまえ。国連に関しても、こちらでうまく対処しておく。君は、いままでどおり生活してくれれば構わない」
捲し立てるようにして外務大臣は返答してくると、足早に借り受けていた病室から出ていく。
その川野外務大臣の後ろを警護のSP達も我先にと出ていった。
「せわしない連中だな。閣僚になると忙しいのかも知れないな」
話が一段落ついたところで、俺は近くのベッドに横になる。
まだ戦いの疲労が抜けていないこともあり、すぐに瞼が落ちた。
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