第271話

「つまり、私は都市伝説の呪いに罹っていて死に掛けていたってことなの?」

「まぁ、そんなところだ」

「それで、お兄ちゃんが助けてくれたってこと?」

「まぁ、そんなところだ」

「それで、その過程で狐の妖怪を仲間にしたってこと?」

「それは違うぞ! 妹君殿! 私は、桂木優斗の妻という立場なのだ!」

「え? それって……それって! ど、どどどど、どういうことなの!? お兄ちゃん!」


 ドスの効いた声で問いかけてくる妹に、兄も少し恐怖を感じる。


「まぁ、色々とあったというか……」

「第一正妻は、わ、わた……都さんはどうするの!」

「ご主人様。その都というのは、どなたですか?」

「――と、とりあえずだ! 詳しい内容は、後日! 後日に! 説明するとして、俺はちょっと日本政府の役人との打ち合わせがあるから! 住良木! あとは、任せた!」

「桂木殿!?」


 話が変な方向へと向かいそうになったので、ここは女同士で話させておいた方がいいだろう。

 とりあえず現状の説明はしたし……きっと……たぶん……わかったよな?


「桂木警視監。ずいぶんと病室内は騒がしかったようだが?」


 病室から出たところで、俺に話しかけてきたのは、川野外務大臣。

 不機嫌な様子なのは、待たされていたからだろう。


「気にしなくていい。それより、詳しい話を聞きたいが?」

「……わかった。それでは少し離れた部屋で会話をしようではないか」

「そうだな」


 少し離れた病室に、外務大臣を護衛しているスーツ姿の男達と一緒に入り、見舞客が利用する為に用意されているテーブル席へ二人して座る。


「――で、火急速やかな要件というのは何だ?」

 

 直接、俺に会いにきたのだ。

 何か問題が起きてると思っていいだろう。


「じつはだな。G20の集まりがあるのだが――、そこに総理と一緒に出席してもらいたい」

「断る」

「――こ、ことわ、断るだと!?」

「当然だ。俺は政府の犬ではないからな」

「いや、君……、一応は身分的には警視監だから……」

「……そういえば、そうだったな」


 出会った時から、やけに俺のことを警視監と役職呼ばわりしてくると思っていたら、日本国政府が俺を利用したいということだったか。


「――だが、断る」

「断らないでくれたまえ。G20のトップが、君に会いたいという事だ」

「俺に? 何の用で? 俺は、お偉いさんには、まったく会うつもりはないんだが?」

「君の力に関して、諸外国のトップは非常に関心を持っているのだ。とくに中国やドイツ、フランス辺りなどは、日本国政府が核ミサイルではなく生体兵器を作っていると考えているようなのだ」

「あー、ありそうだな。だが、ロシアが入っていないのは珍しいな?」

「ロシアは侵略行為を行った結果、G20からは外されている。だから強くは出てこれないし、何より経済も疲弊している」

「つまり、強くは出て来れないということか?」

「うむ。特に君の力を諸外国が注視してからというもの、一人で国を落しかねない軍事力を保有している日本ということで、諸外国からは強くは言ってはきてはいないが……」

「俺と会いたいと?」

「そうなる。おそらくは、君をスカウトしたいという考えもあるようだが……」

「スカウトねー」


 俺は肩を竦める。


「俺は、他国に所属するつもりはないぞ? 第一、何を好んで対応しないといけないのか」

「桂木警視監。それを決めるのは、自身ではなく他人になる。だからこそ、G20の集まりに参加してもらいたい」




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