第257話

「やれやれ――」


 飛び掛かってくるミイラたちの中へと俺は歩を勧め乍ら、納刀していた大太刀を抜き放つ。


「殺気すら存在しない傀儡を斬り伏せても意味はないんだがな」

 

 大太刀を縦横無尽に振るい全てのミイラを――、その得物ごと細切れにする。

 数秒で殲滅したあと、俺は大太刀の峰を肩に乗せたまま、白亜の方へと視線を向けた。

 白亜は、何が起きたのか分からないとばかりに、口を開けたまま、俺を見てきていたが――、斬り刻んだミイラが葉っぱへと姿を変え、その葉っぱすら無数の残骸に成り果て大気に溶け込むようにして散っていく様を見て顔色を変えていく。


「――さて……。お前は、俺の敵なのか?」

「貴様、一体……」

「良く聞かれるが、答えるつもりはない。それより、最初は殺気が感じられなかったが、俺にコイツら傀儡を嗾けてきた時には、殺気よりも怒りや憎しみ――、そして落胆と言った感情を見せてきたが――」


 俺は一度、言葉を切ってから大太刀を納刀し――、


「お前は、俺の敵なのか?」

「そうだったら、何とする! 人間っ!」

「決まっているだろう?」


 殺気混じりの気配を周囲へと放つ。


「なるほど……。妾を殺すということか」

「そうことだ。神社庁から、受け取った資料だと、白狐が過去に存在していたと書かれていた」

「何?」

「白狐は、僧に退治されたあと、傷の手当をされ和解したと、民話では語り継がれている。だから殺すつもりは無かったが……、まあ――、敵なら仕方ないな」

「……弱い数百年を数える神に近い力を持つ妾を殺せるとでも?」

「ああ。十分可能だ」


 一歩、白狐へと近づく。

 それと同じくして白狐の周囲には50体近くのミイラが出現する。


「言っておくが、俺相手に数でのごり押しは無意味だぞ?」

「ふっ。人間である限り体力には限界が――ぐふっ」


 身体強化した上で、一瞬で白狐の懐に飛び込むと同時に岸壁に叩きつける。

 

「ば、馬鹿な――。まるで初動が――」

「だから言っただろう?」


 俺が移動した一瞬で――、その衝撃波の余波でミイラたちは粉々に吹き飛び、さらには白狐の首を掴むと同時に、跳躍――、100メートルほど後方の岸壁に白狐を背中から叩きつけた。


「俺相手に、数は無意味だと」


 指先に力を入れていく。

 その度に、女の顔が苦痛に歪んでいく。


「お前に聞きたいことがある。レイネーゼという名前に聞き覚えはあるか?」

「――な、なんの……こと……」

「イシスって名前には聞き覚えはあるか?」

「イシス?」

「知っているようだな」


 俺は、さらに指先に力を入れる。


「貴様とイシスの関係性を話せ。魔王軍は何を考えて行動している? 素直に話さなければ拷問も辞さない。俺に対して嘘は意味はない」

「魔王軍……? 何の話を……」


 問いかけに白亜の存在はまったく揺らがない。

 つまり嘘はついていない。

 

「答えろ。イシスとの関係性は?」

「あれは……。コトリバコを奪いに来た奴……」

「奪いに来た?」

「あれは、危険な代物。だから、僧から頼まれて、管理をしていた……。お前達は、それを――、呪物を奪いに来たのではないのか? ――くっ」


 白狐の白亜の首を掴んでいた指から力を抜く。

 それにより岸壁に押し付けられていた白狐が、ずり落ちるようにして地面へと崩れ落ちる。


「なるほど……。どうりで最初は殺気が無かったはずだ。それにしても――」


 イシスは何を考えて動いているのか分からなくなったな。

 だが、そうなると……守り人である神社庁の関係者の二人を殺していた理由に説明がつかない。


「けほっけほっ」

「おい。白亜」

「――お前、本当に人間か……」

「そんな事はどうでもいい。ここに通じる道を守っていた守り人を殺したのは、貴様か?」

「何故、そんなことをしなければならない? あれらは僧の子孫である」

「ふむ……」

「ま、まさか二人共殺されたとでも?」

「その、まさかだな」


 

 

 

 


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