第243話

俺は続ける。


「純也、他人を――、相手を――、誰かを殺すという事は、他者から恨まれる。それは、どんな理由があろうと絶対だ。お前は、誰かを殺した時に、その重責と、他者からの恨みを一身に受けるつもりはあるのか?」

「……それは」

「即答できないのなら、お前には命のやりとりをする場に立つ資格はない。だから――」


 純也は無言になる。


「大人しく自分の身を守れる程度の力を身に着けてくれ。防戦一方なら、万が一、相手を殺したとしても、防衛のためという言い訳ができるし、それで心を守ることが出来るからな」

「優斗……」

「だが――、相手を殺すつもりで戦うのなら話は別だ。そこには、覚悟が必要になる」


 俺は溜息をつく。


「だから、俺のようにはなるな。自分でも理解はしている。俺は、この世界には馴染むことはできない異端だからな」


 俺は、闘技場から降りる。


「東雲」

「はい」

「手出ししなかったのは、俺の意図を理解していたからか?」

「――そうですね」

「まったく、この程度のことは新兵の基礎教養だと言うのに、俺にやらせるとはな……」

「私達が伝えたところで正確に理解して頂けるとは思っていませんので。それに……」

「言わなくていい」


 神社庁としては、人殺しをするためには覚悟が必要だということを教えることは出来ないという考えなのだろう。

 だからこそ、純也を俺のところに寄こしたと。


「申し訳ありません」

「別にいいさ。汚れ仕事なんてモノは、よくあることだ」


 それに親友が、誰かを殺して心を壊すようなことにはなって欲しくはない。

 どんな理由があろうと人を殺すという行為を行えば、そいつの精神性は、すでに人間のモノではないし、逆に人間のままでいるのなら、そいつは狂っている。


「純也については修行だけにしておいてくれ。それと霊視の力を持っているエージェントなら誰でもいい。純也の代わりに手配してくれ」

「……分かりました」


 俺は、東雲と話したあと、純也の方へは一瞥もせずに、その場を後にした。




 それから、病院に戻り妹の胡桃の近くで容態を見ていたところで、携帯電話が鳴る。


「桂木殿?」

「東雲からだな」


 話しかけてくる住良木。

彼女は、先ほど結界を張り終えて、戻ってきたばかりで桃のジュースを飲んでいた。


「俺だ」

「東雲です。手配がつきました」

「そうか。すぐに寄こしてくれ」

「あと10分ほどで、そちらに到着すると思います」

「随分と早いな?」

「コトリバコの呪いの範囲が広がっているためです」

「いま、被害者はどのくらい出ているんだ?」

「すでに1000人を超えています。ただ、衰弱だけに留まっているため、胡桃さんのように手足の末端が崩れるような方はいませんから、何とか重度な肺炎と言う事で誤魔化していますが――」

「時間が無いという事か?」

「はい。おそらく3日も持たないかと」

「タイムリミットは、3日――、いや2日ってところか……。さすがに1000人が一斉に死んだら、国も事情を隠せなくなるよな」

「はい。今回は、神社庁の方から桂木さんに依頼をするという形を撮らせて頂きたいのですが……」

「住良木も同じことを言っていたな」

「それで、どうでしょうか?」

「金よりも純也に霊能者としての教育を施してほしい。今のままだと、アイツは自分の身すら守れないからな」

「了解しました。それでは、話は代わりますが、そちらへと向かっている霊能者の名前は、アディール・エリカ・スフォルツェンドと言う者です」



 



 

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