第233話

「驚かれていないのですね」

「――ん? そうか?」

「はい。何の経験もない峯山純也さんが、10年以上もの歳月、修練に励んできた私を数日で追い抜かした事に、もっと驚くものかと」

「――いや。そもそも、神薙って言っても、どの程度の力か俺は分からないからな」

「そういえば、結界の維持くらいしか、桂木殿には見せてはいなかったですね」

「そうだな」

「それでは、今度、一緒に仕事をしませんか? そこで、私の実力をお見せします」

「例の呪物の件か?」

「はい。どうでしょうか?」

「断る。そもそも、俺には関係の無い話だからな。それに神社庁だけでも何とかなるんだろう?」

「それは、そうですが……」

「なら、俺が出る幕でもないし、何より俺に依頼をかけたら、お金取るぞ?」

「……止めておきます」

「それが懸命だな」


 住良木は観念したのかエンジンをかけて車を出発させる。

 車が国道に出たところで――、


 ――トゥルルル。


 電話が鳴る。

 電話番号を確認すると、神谷の電話番号。


「俺だ。どうかしたのか?」

「桂木警視監。緊急の連絡が、病院先から掛かってきました」

「緊急? 病院?」

「どうかしましたか? 桂木殿」

「静かにしてくれ。要件が聞き取れない」

「申し訳ありません」

「事情を聞かせてもらってもいいか?」


 電話向こう相手の神谷へ続きを促す。


「桂木胡桃さんですが、病院から電話がありましたが、電話の内容は、桂木胡桃さんの体が壊死を起こしているとのことです。そのため、早急に――」

「神谷! どこの病院だ?」

「16号線沿いから向かった先の――」


 病院名を確認し、すぐに住良木へと伝えカーナビを起動したあと、病院名を入力する。


「千葉大学医学部付属病院か」

「はい。それで――、すぐに肉親の方に来て頂きたいと――」

「容態は?」

「かなり差し迫った状態とのことです。――ですが、桂木警視監の力なら――」

「分かっている。住良木」

「すぐに向かいます」

「どなたかと居るのですか?」

「ああ、神社庁の人間と所要があってな。とにかく病院には、すぐに行く旨を伝えてくれ」「分かりました」


 すぐに電話を切る。


「一体、どういうことだ? 風邪で、細胞が壊死するなんて話を聞いた事がないぞ?」

「壊死ですか?」

「ああ――」


 返事をしながらも、空を飛んでいくかどうか迷う。

 さすがに、国道沿いで空へ向けて飛翔なんてすれば目立つ事、この上ない。


「くそっ――」


 これが砂浜にいる時なら、何とでも誤魔化しが効いたというのに。

 

「住良木。港の方へ向かってくれ。なるべく一目が付かない方へ」

「そんなに容態が悪いのですか?」

「それに壊死ですよね?」

「ああ」

「…………桂木殿」

「何だ?」

「呪物の件ですが――」

「今は、そんな話をしている余裕はない」

「いえ。そうではなく、共鳴している呪物ですが、子供や女性を呪い殺す呪物なのです。そして――、それは呪いという名で体を腐敗させる力を有していて――」

「何!? どういうことだ!」

「私も、まだ詳しくは――。奥の院から情報が降りてきていませんので、完全には把握していませんが、日本中に散らばっている呪物の影響により、すでに100人を超える女性と子供が呪われており、意識不明の重体に陥っていると話が上がってきています」

「それに胡桃も巻き込まれたという事か?」

「おそらくは――。しっかりと見ないと分かりませんが、可能性は高いと思います」


 話している間にも、車は工業地帯に入っていく。

 波止場の倉庫近くまで来たところで一目が無くなったところで、俺は車から出る。


「詳しい話はあとで聞く。まずは妹を助けにいくから、あとで電話するから、詳しい内容を調べておいてくれ」

「分かりました」

「それと、その呪物の名前は何て名前の呪物何だ?」

「おそらくは誰でも知っていると思いますが、呪物の名前は【コトリバコ】です」



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