第231話
「はい。重大な内容です」
「ほう? 聞かせてもらおうか? 住良木とやら――」
「伊邪那美様が所持しておられる福音の箱を、神社庁に引き渡して頂けませんでしょうか?」
「神社庁に? 神との繋がりが希薄な者しか居らん集団に、この呪物を渡して管理できるとは、到底思えんがな――」
「……それは――。ですが――」
「妾の言ったことは間違っているか? 住良木よ」
「間違ってはいません……」
「――では、この呪物の管理は妾がするという事で問題はないな?」
「伊邪那美様。福音の箱は、バチカンに返却するモノとなっております。その為に返却が叶わない場合、国際問題に発展する恐れがあります。ですので――」
「バチカンとは、キリスト教であったな」
「はい」
「この国の組織ですら、妾は満足に管理が出来ないと言ったばかりだが……、少なくとも神社庁は、我ら天津神を信奉している以上、多少の力を与えているはずだ。だが――、存在もしないモノを神として作り上げたどころか、嘘偽りで塗り固め、他の神々を魔と貶め、多くの命を奪い取った邪教が、この呪物を管理できるとは、妾には到底思えんな」
「それは……」
「分かっているのなら、この呪物の管理は妾に任せておくとよい。よいな? 反論は許さん」
伊邪那美の有無を言わさない言葉に、俯く住良木は――、
「分かりました……」
そう答える他ないのは、最初から分かっていたが、伊邪那美の様子を見る限り、かなり苛立っているような気がするのは、俺の気のせいではないだろう。
「ふむ」
伊邪那美が、俺の方をチラリと見てくる。
返す必要性が無いというのは、事前に打ち合わせてはしていたが、かなりごり押しでどうにかしたな。
まぁ、神社庁が神からの命令に逆らえる可能性は限りなく低いと判断を伊邪那美が下からだが、神様パワーはすごいものだな。
話が終わり、すぐに退去することを伊邪那美に命じられたあとは、俺と住良木は車まで戻る。
住良木が運転席に座り、俺も車に乗り込んだところで、住良木が深い溜息をつく。
「桂木殿」
「どうした?」
「桂木殿は、伊邪那美命様とお知り合いだったのですね」
「まぁな。そうじゃなければ、福音の箱なんて危険なモノとか、俺が残しておくわけがないだろ。普通に消し飛ばしてたな」
「それは、それで――、どうなんでしょうか……。それよりも、やはり神から力を授かっているという事で、伊邪那美様と?」
「そんなところだな。――で、これからはどうするつもりだ?」
「姫巫女様に報告をします。あとは姫巫女様に指示を仰ぐだけです」
「そうか。まぁ、アイツも一応は神だからな。呪物の取り扱いに関しては一日の長があるんじゃないか?」
「あいつって……。世界にも知られている黄泉の国の女王様ですよ? 桂木殿は、もう少し神々を敬う気持ちを持った方がいいと思います」
「そうは言われてもな――」
「桂木殿が霊視の力を持たないというのは本当なのですね……。少しでも霊視の力があるのでしたら、あれだけ強い神の力を前にして平然としていられませんし……」
「だから言ったろう。俺には霊を見る力は無いと」
「はい。それでも天津神にお知り合いがいるとは思いませんでした」
「今度から、住良木も伊邪那美と知り合いだろ」
俺の言葉に住良木が顔を真っ青にして左右に頭を振る。
「そんな恐れ多いことを――。本来でしたら日本の神たる御身を直視することは禁忌とされているのです。知り合いなど、以ての外です」
「それは残念だ」
「――と、とにかく桂木殿。これから、神と直接、会う事は――、少なくとも桂木殿以外が会うような事は避けた方がいいと思います」
「そうなのか?」
「はい。禁忌ですので!」
山崎とか、伊邪那美と同じ家で暮らしていると言っていたが、それは言わない方が良さそうだな。
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