第225話 桂木胡桃(2)

「そうね。私が、もっとシッカリしていたら……」


 そう語りながら自嘲気味な表情を見せる都さんを見て、私は顔を背ける。

 私だって、都さんを兎に角語る資格なんてないから。

 お兄ちゃんの口調が変わった――、あの日。

 明らかに、お兄ちゃんが違うって私は気が付いていた。

 

 ――だって……、海外でテロリストにあって死去した――、お父さんとお母さんのことを、お兄ちゃんは覚えていなかったから。


 でも、私は、それでもいいと思っていた。

 お兄ちゃんは、学校で虐められているだけでなくて――、お父さんとお母さんと……、そして誰にも話してない私とお兄ちゃんの秘密も全部忘れていたから。


「……私。明日、警察に行ってみます」

「本気なの? 警察からは、しばらく外は出歩かないようにって言われていたわよね?」

「でも……、何も知らないままで自宅に軟禁されたままなのは嫌なの」


 私は、ソファーから立ち上がり、リビングのカーテンを少しだけ開けて外を見る。

 外には、見た限り巡回している警察官が2人居た。 


「許可が下りるかしら?」

「都さんは、お兄ちゃんと会えないまま5日も経過したことを何とも思わないの!?」

「思うけど……」


 視線を床へと向ける都さんに、私は、まるで自分を見ているようで、苛立ってしまう。


「私には、耐えられない……」

「それは……」


 都さんは、最後まで言葉を口にしない。

 たった一人、残された肉親だと言う事を都さんも理解しているから。

 

 ――でも、血縁関係はない。


 それを知っているのは、もう私だけ。

 お兄ちゃんにも、その記憶はないと思う。

 だって――、未だに両親は無事に海外赴任をしていると思っているようだから。


「都さんだって同じじゃないんですか?」

「……」

「だんまりですか? 都さんが、うちに泊まりに来るなんて――、お兄ちゃんに、そこまで好意を持つなんて、今までなかったですよね?」

「違う。違うの……」

「何が違うんですか! 私、知っているんですから!」

「――ッ!?」

「とにかく私は明日、神谷って警察官に電話を入れます。お兄ちゃんが何をしているのか、私は心配ですから!」




 翌朝は、最悪だった。

 私は、体の節々に痛みを感じながらベッドから出ることが出来ずにいた。

 体温計で、体温を測ると体温は38.3度。

 咳などが出ていないけど、明らかな風邪。


「今日、何とかしようと思ったのに……」

「胡桃ちゃん?」


 気持ちを吐露しかけようとしたところで、ドアがノックされて部屋に都さんが入ってくる。


「何ですか? ノック後の返事がないのに部屋に入ってくるのは、マナーとしてどうなんですか?」

「今日は、起きてくるのが、やけに遅いなって思って心配になって来てみたの。昨日も夜遅くまで、あのあと家の外で待っていたでしょ?」

「都さんには関係の無い話なの。それよりも他人の行動を逐一把握している何て暇なんですね」

「そうね。暇だけど……。でも、私、思ったの。私も優斗に会いに行こうって――」

「そうですか……」


 風邪薬を飲んだ私は、体が睡眠を欲しているのか――、眠ってしまった。

 





 

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