第223話 山崎家(2) 第三者side

「――で、どうするのだ? 一番、早い手段としては、アレに箱ごと破壊してもらう事が人類にとって最善の策だと思うのだが?」

「それは……、困ります」

「長年、閉じ込められ地獄を見せられてきた結果、仮初であったとしても、ようやく得た自由を手放したくないという事か。まぁ――」


 山崎の方をチラリと見る伊邪那美。

 その視線を機敏に感じ取った山崎は、家の主ではあったが、玄関のドアを開けて外へと出ていく。

 空気が読める男であった。


「すごいですね。目で言葉を交わすなんて……」


 そんなパンドーラの言葉に、小さく咳をした伊邪那美は口を開く。


「話の腰を折るでない。お前を庇ってやったのは恋をしたいという願いがあったからだ」

「はい……。――でも、どうして私の願いを――」

「決まっておろう。黄泉の国の女王を長年しているとな……、心残りがある者で死んで来た者は、色々と問題を起す傾向が強い。何より、現世に執着し現世にも迷惑を掛ける事がある。それに――、同じ女として汝の考えは、尊重したいとは少しは思っておる」

「伊邪那美様……」

「よい。それよりもエルピスの箱庭の汝が縛られている封印を解除する方法はあるのか?」」

「これは人の魔術によるものですから……」

「そういえば神に封印されたのではなかったのだな」


 伊邪那美の言葉にコクリと頷くパンドーラ。


「――では、誰が封印したのだ? まがりなりにも汝は、大地母神であろう? 神格を持つ者を封印するなぞ、人間には――」

「私を封印したのは……ソロモンです」

「ほう。あの大魔術師か」

「知っているのですか?」

「うむ。エルサレムと日本は深い関わり合いがあるからの。――そうか。だからエルピスの箱庭は日本に――」

「何か?」

「――いや。それよりも、行使された魔術が健在ということは――」

「ソロモン王は、存命しているかと思われます」

「――で、あろうな。面倒なこと、この上ない。もしや、今回の騒動を裏で引いていたのは……」

「それは分かりません」

「どちらにせよ、神代の時代とは違い、今の現世では、神々の力は限りなく衰えていると言ってよい」

「それは、私も感じとっていました。神代の時代でしたら、エルピスの箱庭が暴走したとしても、破壊的な惨事は避けることが出来たと思いますので」

「ふむ。そうなると、バチカンに輸送するという話もどこまで本当か……」

「あの……、伊邪那美様。エルピスの箱庭に掛けられている魔術は、大魔術師ソロモン王がかけたモノです。生半可な力では契約を解除することはできませんし、破壊することも、彼以外では――」

「分かっておる。だからこそ、話合っているのであろう? ただし、そうなると……、霊的に強い力を持つ者に頼みエルピスの箱庭内で、汝の肉体を回収するしか手が無いわけだが、困ったものだな」

「はい……」

「まぁ、一ヵ月近くは猶予があるのだ。桂木優斗から頼んで無理であるのなら、汝から頼むしかないであろうな」

「――えっ? それって……」

「よく言うであろう? 男は、惚れた女に弱いと――」

「もしかして……」

「峯山純也という男を誘惑して落として助けてと縋りつけばいいのだ!」

「えっと……」


 伊邪那美の俗物な言い方に、苦笑いを返すパンドーラであった。




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