第222話 山崎家(1) 第三者side
千葉西駅の沿線上の古びれたアパートの一室のドアが開く。
部屋の中に入ってきたのは、山崎であった。
そして――、その後ろからは、絶世の黒髪の美女とも言える女性が、山崎が玄関から上がった後を付いてくるかのように部屋の中に入ってくる。
「ようやく戻ってきたのう」
「さすがにタクシーで戻ってくるのは――」
「そうだの。だが、あれが電車に乗って他の者に触れれば大問題になる」
虫籠を、山崎はテーブルの上に置きながら溜息をつく。
その虫かごの中には、白い箱が入っており、所々、黒い斑点が見えていた。
「大丈夫か? パンドーラよ」
伊邪那美が、声をかけると、箱の前には薄っすらと白い靄に包まれた安倍珠江そっくりの女性が姿を見せる。
「ほう。最初に見せた姿とは異なるのだな」
「はい。以前に見せていた姿は、エルピスの箱庭内に存在する私の本体とリンクしたからです。今は、エルピスの箱庭は、人の想念により穢され始めておりますので、内部まで浸食される時間稼ぎと言う事で、縁を切っている状況です。その為に、私が最近、もっとも知る人間を利用させて頂きました」
「なるほど。その姿は桂木優斗が話していた安倍珠江だと言う事か」
「はい」
コクリと神妙そうな表情で頷くパンドーラは、部屋の中を見渡す。
「ずいぶんと小さな部屋ですね」
「この時代の人間は貧乏人だとワンルームという屋敷に住む習性があるらしい」
「そうなのですか……。私は、ずっとそれなりの屋敷の蔵などで封印されていましたから――」
「さりげなく私をディスのは止めてもらえますかね?」
部屋の換気をしながら呟く山崎幸太郎であった。
「ところでパンドーラよ。どれだけ時間に猶予があるのだ? すでに汚染が始まっているように見えるが?」
「そうですね……。私が意識を維持できるのは一ヵ月が限界と言ったところです」
「そうなれば、また暴走するということか?」
「暴走をしても、指向性を持たせて利用できるほどの力ある術者が居ない限り、そこまでは強くはありません。せいぜい、殺人事件が起きるくらいです」
「――それは、大問題なのでは?」
思わず二人の会話に常識人としてのツッコミを入れる山崎。
「うむ。たしかに黄泉の国も、そういう呪術的な死者を相手にするほど暇ではないからの」
「すいません」
「気にする事はない。それよりも一ヵ月か……。最悪、思金神(オモイカネ)に相談するしかないか」
「それって知恵の神ですか……」
「そうなる、幸太郎は神に関して詳しいのだな」
「一応、そういう仕事なので――って、以前にも命にも教えましたよね?」
「う、うむ……。それにしても、パンドラの箱が室内にあると色々とやりにくいな。幸太郎も、そう思うのであろう?」
「まぁ……」
微妙な雰囲気を醸し出す二人。
そんな二人を見ていて首を傾げたパンドーラは、ハッ! と、した表情をしたかと思うと。
「もしかして、お二人は男女の仲なのですか?」
「……」
「……」
二人が無言になる。
それはイエスと言っているようなモノであった。
「何だか、ごめんなさい。お二人の愛の巣に転がり込んでしまって……」
「――いや。いい。それよりも今後のことを考えることが必要であろう?」
「はい」
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