第207話
「――で、それにお前も蝕まれて正気を失っていたと?」
「正気というか、管理者として管理できていなかったというか……。何とか、貴方と接触したことで、過度な負荷が掛かり、自由に行動できる隙が生まれたというか――、更に暴走したというか……」
言い難そうに語るパンドーラは、俺を真っ直ぐに見てくる。
「どういうことだ?」
「私が、貴方にエルピスの箱庭に触らないで欲しいとお願いした事を覚えていますか?」
「そういえば、そんなことを真っ白な箱になった時に言っていたな……」
「貴方は、えっと……何と言えばいいのか……、恩人に近い方なのに失礼なのですが……」
「別に、気にしなくていい。ハッキリと言ってくれないと分からないことはあるからな」
「分かりました。それでは――」
コクリと頷くパンドーラ。
「桂木優斗さんが、私に最初に触れた時には、私は安倍晴明の呪符により力の大半を抑えられていました。そして可の者が作りし鳳凰の扇により、微細な力を利用される状態でした。そのために、正気を失い暴走していたエルピスの箱庭は、その力を良いように利用されていました。ただ――、桂木優斗さんにより呪符が全て破壊された事で、エルピスの箱庭にため込まれていた膨大な負のエネルギーが一気に解き放たれ、宿敵であった安倍晴明の直系の血筋である阿倍珠江に憑りつく形で力を与えるという皮肉な結果になり、あのような事態が引き起こされました」
「桂木優斗、汝……」
「おいおい、俺の責任にするなよ」
「ただ、桂木優斗さんが破壊された鳳凰の扇があれば、指向性を持った悪意が放たれていた可能性がありますので、桂木優斗さんが悪いという訳では……。あっ――、ちなみに鳳凰の扇というのは朱色の扇子になります」
「……あーっ」
そういえば、そんなモノを破壊した記憶があるな。
「つまり、俺は悪くないということか」
「――いや、汝が安倍晴明の呪符を破壊したから、ああなったのではないのか?」
横で聞いていた伊邪那美が突っ込みを入れてくる。
「つまり原因を作ったのは、バチカンに返却予定のエルピスの箱庭を盗んだ阿倍珠江だが、それを悪化させたのは俺だという訳か?」
「えーっと、そこまでは……」
「どちらにせよ、エルピスの箱庭で俺の力を確かめようとしていた事実は変らないだろ?」
「はい。それは、間違いありません」
「つまり俺は悪くないと」
「……桂木」
伊邪那美が俺を見てくる。
「わーったよ」
頭を掻きながら俺は溜息をつく。
「今回は、保留だ。だが、パンドーラ。お前が危険だと言う事は代わりない。その事に関しては、どう落とし前を付けるつもりだ?」
「それに関して言えば――」
「桂木優斗」
「何だ? 伊邪那美」
俺とパンドーラとの会話に、俺の名前を呼んでくる伊邪那美。
「パンドーラの体を作ることは出来ないか?」
「コイツの?」
「うむ。妾の体を再構成した時のように、この者の肉体を再構成することはできないのか?」
「それは無理だな。そもそも、伊邪那美の場合は黄泉の国に存在していて肉体は腐っていたが遺伝子情報だけは残っていたからな。いくら俺でも遺伝子情報と細胞核が存在していない物を再生することは不可能だ。まずは器がないとな……」
「それなら、エルピスの箱庭に眠っています」
「遺伝子情報と細胞核は存在しているのか?」
「それは、分かりません。何しろ内部は地獄のような環境でしたから……」
「あと、俺がエルピスの箱庭に触れるのはマズイんだろう? だったら、内部に行くのも無理だろう? 伊邪那美ならいけるのか?」
「妾の神格が入ればエルピスの箱庭は砕け散るであろうな」
「つまり八方ふさがりってことだ」
「それでしたら! 安倍晴明の式神と契約を結んだ純也様なら!」
「純也かー」
まぁ、アイツならいいか。
どっちにせよ、式神なんてファンタジーなモノと契約した以上、こっち側の人間になったわけだし……。
「まぁ、純也なら問題ないな」
「お主、神楽坂都との扱いの差が酷いな」
「俺は、都が無事なら問題ないからな」
そもそも純也とか、俺の予想では異世界で勇者になっていたはずだし――、というか勇者気質だと思うからな。
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