第191話 第三者side

「ホテルが炎上してますけど……。あれって――、一体、何が起きているんですかね?」


 峯山純也と、神楽坂都、そして桂木優斗の妹の胡桃を後部座席に乗せたタクシーは車内のミラーを見ながらひとり呟くが――。


「さあ?」


 答えるつもりのない純也は、惚けて見せる。

 あくまでも自分達には関係が無いとばかりに。

 そんな彼の手を強く握りしめるのは都であり――、彼女は何度か自分達が泊まっているホテルの方へと振り向く。


「(あの人たち、大丈夫かな?)」

「(分からない。ただ、優斗は逃げろって電話してきただから)」

「(優斗は、こっちに向かっているのよね? どうして、優斗は、逃げろって言ったの? もしかして何か事情を知っているのかな?)」

「(さあ?)」


 二人は、小声で言葉を交わす。


「お客さん、西側って、どこまで向かえばいいんですか?」

「あ、えっと……」


 運転手の言葉に、純也は慌てて携帯の画面を映し地図を表示する。


「田沢湖方面までお願いできますか?」

「あいよ」

「あと出来れば早く着きたいんですけど……」

「待ち合わせか何かかい?」

「はい」

「分かった。裏道を通って街道に出たあと進むとしよう」


 タクシーの運転手は、ハンドルを切ると、市街地の裏道に入り、信号が少ない道を走る。


「(純也って、すごく落ち着いているのね)」

「(まぁ、あれを見たらな……)」


 峯山純也は、高清水旅館で彼を襲った化け物の姿を思い出し苦笑した。




 ――その頃、岩手県警本部では盛岡駅前のホテルが爆発炎上したという一報が入っていた。

 

「どういうことだ!」


 急遽、岩手県警本部の建物内に、日本国政府の主導で立ち上げられた結界対策室では、時貞官房長官の怒鳴り声が響く。

 その反応に、微動だにせず報告を手にした岩手県警察本部の本部長である田所(たどころ)基樹(もとき)は、続けて事態の説明を開始する。


「現在、盛岡駅前のプリンセスホテルにて火災が発生しているとの報告が入りました。あと、続けて爆発音も確認されており、捜査員の数名が銃声を確認。捜査員が交戦しているとのことです」

「テロか?」

「こちらをご覧ください。ホテル内の警備室のライブカメラが映している映像になります」

「――な、なんだ……これは……」


 対策室のスクリーンに表示されたのは、コモドドラゴンに形は似ていたが、大きさは倍以上もあろうかという炎を纏うサラマンダーであった。

 そのサラマンダーに拳銃を向け捜査員とは引き金を引くが――、その銃弾は、サラマンダーの皮膚に火花を散らすだけで何の効果も見られない。

 逆にサラマンダーが口を開き、放った30センチほどの炎弾は、捜査員の体に直撃し、あまりの威力で人体を軽く破壊し――抉り、四肢が捥げ、辺りに散らばる。


「――うっ……」


 そんな凄惨な光景を見せられた時貞は、その場でえずくが、何とか堪えることに成功する。


「な、なんだのだ……この化け物は……」

「わかりません。ただ、ホテルの屋上から襲撃してきたとしか――。現在はホテルの従業員や利用客が逃げる時間を稼ぐために捜査員が戦っています」

「馬鹿なのか! 君は! 捜査員をさっさと撤退させろ! あんな化け物と戦って時間を稼ぐなんて無理に決まっているだろう!」

「ですが、時間を稼がなければ一般人に被害が広がります」

「(ぐぬぬぬ……。この選挙前に……、明らかな死人が出るとは――)」


 小さく己の立場を呪う時貞。

 だが、彼は日本国総理大臣から直接的に指揮を任された以上、責任追及からは逃れられない。

 ただ――。


「わかった……、だが! 私は、何一つ! 交戦は認めていなかった! 捜査員が勝手に交戦したに過ぎない! そして、捜査員は、田所君! 君の部下だ! つまり責任は、君にあると言う事を忘れるな!」

「ここでの最高指揮官は――」

「だ・か・ら! 私は、交戦の許可を出していないと言っているんだ!」

「ですから先ほどから申した通り、捜査員が時間を稼がなければ、一般市民が巻き添えを受けると――」

「それでも、私は許可を出していない! 話も受けてない! 現場が勝手に行動したのなら、それは普段からの君の部下への指導力不足なのではないかね?」

「……ちっ」

「今、舌打ちをしたのかね? この場の上司は私だということを知っていて?」

「なら、責任を取るのは上司の仕事だと思いますが?」


 田所の言葉に、苛立ち、眉間に筋を作った時貞は歯ぎしりをする。


「何度も言うが! 私は、交戦の許可を出していない! 私は、悪くない!」


 時貞官房長官の言葉に、その場に居た捜査員たちは呆れた表情をした。

 



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