第140話

 体育館で行われる二度目の始業式。

 一ヵ月前に行われたばかりと言う事もあり既視感を覚えるが、まあ、今更だな。 

 壇上には、山城綾子が立ち、今年の抱負という目標を語っている。


「日向にありました母校は、土砂崩れの危険性から国土交通省と文部科学省の方から、勉学の場として十分な対応が出来なリました。そのため、文部科学省と教育委員会の方々からのご支援により、統廃合となった小学校の校舎を利用できる事になり――」


 前向上を語る生徒会長の声を真面目に聞いている生徒は少ない。


「なぁなぁ優斗」

「何だよ。純也」

「あれだよな? 要するに、何時までも授業を始めない学校について、PTAから怒りのクレームが入り、教育委員会が動き、さらに文部科学省のニュースになったから動いたというのが真相らしいが――、それを正直に語っても角が立つだけだから、遠回しに礼を生徒会長は述べているんだよな?」

「まぁ、ニュースでもやっていたからな」


 俺は視線を壇上近くへと向ける。

 そこには山王高等学校の教師だけでなく、高そうな背広を着た50代から60代の老人が並んでいる。

 どう見ても教師には見えない。

 おそらくは、教育委員会や文部科学省の御偉いさんなのだろう。


「だよなー。山城先輩も、大変だよな」


 俺と同じ方向を見ていた純也は綾子に同情するかのように呟く。


「まぁ、金持ちには金持ちの苦労があるんだろうよ」

「学校経営って大変そうだしな」

「まぁ、そういうことだ」


 俺は返答しながら周りを見渡し、一角を凝視した。

 そこには、白衣を羽織った住良木が居て――。


「どうして、アイツが此処に……」


 俺と目が合った住良木は、ニコリと微笑むと手を振ってくる。

 それに、大して俺の周りの男達は、浮足立つ。

 どうやら、生徒会長の話を聞いてないばかりか、大半の男子学生は、住良木の方を見ていたらしい。

 そして、必死に壇上に立ちマイクに向かって――、俺達に向かって話している綾子の額には、青筋が浮かび上がっていた。

 確実にお怒り心頭という合図。


「純也」

「何だよ? 見てみろよ! あの体! まだまだ貧相な、うちのクラスの女子と比べて完璧なプロポーションだぞ? それに、こっちに手を振ってるぞ!」

「そうか。良かったな」

「まぁ、優斗には都がいるもんな」

「いつから、そういう話になっているんだ。邪推するのもいい加減にしておけよな」

「またまたー」

「そこの男子! あとで、体育館に残りなさい!」


 山城綾子が叫ぶ。

 あまりの大声に『キーン』と、言う音の反響『ハウリング』まで起きる始末。


「ほら、怒られた」

「馬鹿だな、優斗。山城綾子先輩は高根の花! 新しく配属される白衣の女医さんは、20代の超絶美人だぞ! どう見ても、お近づきになる方は決まってるだろ!」

「そこの男子たち! 今日は大事な日なのよ!」

「おい。今、男子たちと言われたが?」

「あれだ。保険室の女医に視線を向けていた男子学生全員では? 知らんけど」

「知らないのかよ」


 俺は、思わずツッコミを入れた。

 

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