第126話
「何の真似だ?」
俺は、神谷がスーツの懐から取り出し向けてきた拳銃へと一瞥向けたあとに言葉を発する。
「それは、こっちのセリフよ! すぐに彼から足を退けなさい!」
「断ったらどうするつもりだ?」
「これが見えないのかしら?」
「言っておくが、通常兵器では――、核ミサイルでも、俺を殺すことは出来ないぞ?」
「……それは、あなたの能力を含めてと言う事かしら?」
「さあな。だが、俺の力は知っていると思うが?」
言葉を返すと共に、殺意を神谷へと向ける。
「――ッ!?」
俺の忠告に、神谷は一瞬、体をふらつかせるが、すぐに両足でアスファルトの上で立つと、体を奮い立たせるつもりなのか唇を強く噛みしめ、俺を睨んでくる。
「ほう……」
良いな胆力をしている。
悪くはない。
神谷と言葉を交わしながらも俺は足を富野から退かすと、首を掴み持ち上げる。
「桂木君ッ!」
必死な形相で俺を見てくる神谷。
それに俺は溜息をつく。
そして――、俺は富野を神谷の方へと投げる。
10メートルほど空中を舞った富野は、神谷の後ろで待機していた竜道寺が受け止める。
「竜道寺君!?」
「大丈夫です。それよりも――」
竜道寺の言葉に、ハッとした表情で俺へと再度、視線を向けてくる神谷。
「興が醒めた」
俺は呟く。
常人なら一瞬で意識を刈り取れる殺意に真っ向から立ち向かってくる気概。
それは悪くない。
むしろ心地よくすらある。
「あ……ううっ……」
「神谷警視長! 富野の傷が治っています!」
「桂木君、貴方……」
「言っただろう? 興醒めだと――。記憶の処置はしておいた。俺と出会ってからの記憶は消去しておいた。あとは、適当に対処しておいてくれ」
「貴方……。記憶までも……」
「記憶を作ることは出来ないが消去することは出来る。それだけだ――。今回は、神谷――、お前の気概に免じて、俺の方から引くとしよう」
「わかったわ……」
「それとゲーセンの方だが――」
「そっちに関しては――、富野雄史のグループについては、すでに検挙済みよ」
「どういうことだ?」
「俺を張っていたと言う事ではないのか?」
「それは誤解ね。そもそも、貴方の力は既に把握しているもの。だから心配はしていなかったわ。ただ、これはやりすぎよ」
神谷が拳銃をホルスターに入れながら、そう忠告してくる。
「やりすぎね。俺としては、敵を排除したに過ぎないが?」
「それでも……よ」
「わからんな。それよりも、富野のグループとは?」
「彼らのグループは、麻薬売買をしていたグループだったの。彼らの自宅から、麻薬を見つけたことで、さっき一斉検挙しようとしていたら――」
「俺と出会ったということか?」
「そうなるわ」
「なるほどな……。――なら殺した方がいいんじゃないのか? その方が、あと腐れないだろ?」
俺の言葉に神谷が困ったような表情で、こちらを見てくる。
「警察は捕まえるのが仕事なの。裁くのは、裁判所の仕事」
「甘い考えだな」
思わず、そう言葉が口から零れる。
「犯罪をした奴が、改心するとでも本当に思っているのか? 麻薬を売買する。人殺しをする。何か犯罪を起こす。そういうやつは、一度でもタガが外れた人間だ。そして、一度でも、犯罪に関わった人間は、別の生き物へと成り下がる。そういうのは人間じゃない。だから改心はしない」
「だから、貴方は殺した方がいいと思っているのかしら?」
「その方が効率的だろ?」
「……桂木君、あなた……」
「悪いな。神谷、お前が、俺をどう思ったかは知らないが、俺は自分の考えを変えるつもりはない。戦場に一度でも放り込まれれば、俺が言った言葉が理解できるはずだが――。まぁ、甘い理想という夢物語に浸かっている人間には、理解できないだろうな」
「このことは、宮原警視監にも――」
「問題ない。だが――」
俺は、笑みを浮かべる。
「この俺の【敵】になるのなら、覚悟しろよ?」
「分かっているわ。今回は、こう言う事があったと報告しておくだけだから」
「なるほどな」
「――でも、桂木優斗君」
「何だ?」
「貴方は、神の力を手に入れたと私達は思っているわ。だから、神様の力に振り回されるような事はして欲しくないわ」
ああ、そういえば、そんな設定で話をしていたか。
「そうだな。気を付けるとしよう」
その場を、神谷に任せて俺はゲームセンターへと足を向ける。
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