第118話

「優斗! 誰なの! あの女の人はっ!」

「一体、何が起きているんだ……」


 俺は仕方なく、溶接しておいた部屋のドアを開けて、外へと出る。

 すると、かなりお怒り気味の都と、妹の姿が。


「二人とも落ち着け。まずは誰が尋ねてきているか確認しないとな」

「本当に知らないの?」


 上目遣いで聞いてくる都。

 俺と殆ど身長が同じな癖に上目遣いとは、これ如何に……。


「お兄ちゃんの様子からして本当に知らない人?」

「だから知らないって言っているだろ。とりあえず、俺に会いたいと行っているのは――」

「外の踊り場で待っているって」

「なるほど」


 答えてきた都の言葉に頷く。


「それじゃ、俺が対応してくるから二人は家の中で待っていてくれ」

「胡桃も行く!」

「そうよ! 私も同席するわ!」

「いいから。ここは俺に任せておけ」


 二人の頭の上に軽く手を置き、俺は玄関から外に出る。

 玄関から出ると、すぐに階段降り口になっていて、階段を10段ほど降りると、そこは折り返しの踊り場になっている。

 そして、その踊り場には和装の――、黒髪の女性が凛とした佇まいで立っていて、俺が玄関から出て彼女を見た瞬間、俺の方へと女性も視線を向けてきた。


 そして、おれは思う。

 誰だ? コイツと……。


「桂木優斗さんですね?」


 一瞬、視線が交差したところで話しかけてきたのは向こうから。


「私は、東雲(しののめ) 柚木(ゆずき)と言います」

「東雲?」

「はい。桂木優斗さんの話しは、住良木の方から聞いております。本日は、桂木優斗さんに、お会いしたく思い伺わせて頂きました。このような早朝から、ご迷惑かと思いましたが、まだ高校生と言う事を聞いておりましたので、午後は何時になるか分からないと思いましたので」

「いや、今は、学校は休みだからな。それよりも――」


 いま、目の前の東雲という女は、住良木から報告を受けていると話していた。

 つまり、神社庁の人間ということか。

 

「どうかしましたか?」

「少し思ったんだが、俺の携帯に直接電話をすれば良かったんじゃないのか? 住良木から渡されていた携帯があるんだし」

「あ――」


 何やら、ハッとした表情をしているが……。


「申し訳ありません。携帯電話を住良木が渡していたという事柄を忘れていました」

「そうなのか」

「次回から、お会いする時には、住良木がお渡しした携帯へと連絡を入れさせて頂きますね」

「そうしてくれると助かる」


 俺は、ドアの隙間からこちらを見てきている都と胡桃を気配で察しながら言葉を選びつつ会話を続行する。


「ところで、少し場所を変えないか?」


 こんな場所で、神社庁の話はしたくないからな。


「分かりました。それでは下でお待ちしていますね」

「着替えてくるから少し待っていてくれ」


 東雲という女が階段を降りていくのを見送ってから、俺は自宅のドアの方を振り向く。

 するとドアはパタンと閉まるが――、その際に都や妹と視線ががっちりと合った。

 まったく、あいつらは何をしているのか。


「お兄ちゃん! あの美人さんと何の話をしていたの? 何だか、すごく親しそうに会話してたけどっ!」

「そうよ! 優斗!」

「二人共と落ち着け。あいつは、俺の職場の先輩だ」

「――でも、優斗は知らないって言っていたよね?」

「うん! 胡桃も聞いたの! お兄ちゃんは、知らない人だって」

「俺が登録した派遣会社の人間らしくてな。かなり人手不足だからって理由で、家まで来ただけだ」

「本当なの? お兄ちゃん」

「本当だ。俺が嘘をついたことがあるか?」

「うーん」


 どうして、そこで迷う、妹よ。


「とりあえず、優斗!」

「何だ? 都」

「証拠見せて! 証拠!」

「何の証拠だよ……」

「優斗が、登録した派遣会社の書類! あるんだよね?」

「お、おう……」


 やばい、適当に話したからそんなモノはないぞ……。


「それじゃ、すぐに見せて!」

「とりあえず、あとでな! 派遣先の人間を待たせたらいけないからな! 帰ってきたら見せるから!」


 俺はすぐに着替えて家の外へ出る。

 そして家のドアに背中を預け溜息をつく。

 何とかしないとな……。


「あら! 優斗君、今日も違う女の人が尋ねてきたのね!」


 向かいに住むオバサンは、それだけ言うと俺が反論する前にドアを閉めた。


「まったく……」


 俺は思わず溜息をつく。

 異世界から戻ってきてから、まったく息つく暇もない。

 少しはのんびりと過ごしたいものだ。


 


 

 

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