第116話

「それで、桂木君」

「何か?」


 宮原は、平然を装って語り掛けてくるが、その瞳には明らかに怯えの色が見て取れる。


「彼は――、竜道寺警視は、何時頃に目を覚ますのか分かるかしら?」

「すぐに目を覚ますと思うが?」

「そう。良かった……。それよりも、戦う力を持っているのなら、最初から教えて欲しかったわ」

「宮原警視監、彼は力を隠しておきたかったのではないでしょうか?」


 俺の代わりに宮原の質問に答えたのは神谷。


「どういうことかしら?」

「それは、私にも分かりかねますが、少なくとも桂木優斗君のことを調べていた限りでは、彼は自身の力を隠そうとしていた節があります。隠しきれていませんが――」

「そう……、理解できないわね」


 宮原は、戸惑いながらも立ち上がり俺へと視線を向けてくる。


「桂木君。貴方の本当の力は、どのくらいなのかしら?」

「俺の本当の力?」

「ええ。先ほども聞いたけど、この惨事は『少しだけ本気』を出した結果なのよね?」

「まぁ、そうだが……、本気の力を見せるつもりはないな。そもそも力ってのは、見せびらかす為に、手に入れるモノじゃないからな」

「そうではなくて、貴方が、どのくらい強いのかを知らないと、警察庁としても困るのよね」

「つまり、ランク付けできないと言う事か?」

「ええ。そうなるわ」

「ふむ……」


 俺の強さが、どのくらいと聞かれても困るな。

 いまの鍛えていない肉体が出せる力と言ったら、かなり制限が掛っているからな。

 全力を出しても、本来の力の1%も出せれば御の字と言ったところだろう。


「なんて説明していいか分からないな」

「それは、貴方自身、自分の力を把握しきれていないと言う事かしら?」

「――いや、そうではなくて、何と言うか……」

「分かったわ。それでは、後日、身体測定を行うと言う事でどうかしら? 基礎的な身体能力が判明すれば、それを数値化すれば、貴方の力が、どれくらいなモノか分かると思うから」

「ふむ……。それは握力測定とか、そんな感じなモノか?」

「そうなるわね」

「なるほど……」


 たしかに異世界では、身体測定とか、そういうモノは存在していなかったからな。

 興味が無いと言えば嘘になるというか、どの程度の身体能力を有しているのかは、少しだけ興味がある。


「まぁ、いいだろう。それと竜道寺に伝えておいて欲しいが」

「何かしら?」

「勉強をキチンと教えて欲しいと伝えておいてくれ」

「待って! 貴方、これだけの力を持っているのに公務員でいいの?」

「何を言っているんだ。俺をスカウトしたのは警察庁だろう? なら、きちんと最後まで面倒見てくれないと困る。それに年収3000万円は出すんだろう?」

「……そ、そうね」

「約束くらいはキチンと守ってくれ。そうじゃないと――」


 ゴクリと唾を呑み込む宮原。


「アルバイトでお金を稼ぐことになるからな」

「――え?」

「何を驚いているんだ?」

「だって……、桂木君……。貴方、これだけの力があるのなら……」

「たしかに土建屋で道路工事のアルバイトならできるかも知れないな。いや、実績がないから新聞配達ならもしくは……」


 まったく、日本には冒険者ギルドが無いのが問題だな。

 

「桂木君。宮原警視監は、貴方ほどの力があるのなら軍隊に入るか、何か悪事を働くなりかすればいいのでは? と、考えているのです」

「どうして、俺が、そんな面倒な仕事に就かないといけないんだ?」


 だいたい、軍隊に入るとか面倒なこと、この上ないだろうに。

 しかも悪事を働くとか、そんなのは俺のポリシーに反する。

 少なくとも、俺に害が及びそうな奴以外と戦うつもりはないからな。


「なるほど……。宮原警視監、しばらく彼のことは様子見で良いのではないでしょうか?」

「そうね。どちらにしても、桂木君を何とかしようとしたら軍隊の出動が必要になるものね」

「ずいぶんと話が逸れたようだが、とりあえず警察庁の方に就職する方向でいいんだよな?」

「ええ。もしかしたら特殊強襲部隊への配属になるかも知れないけど」


 どうして、俺が、そんなヤバそうな名前の部隊に配属されるような流れになるのか。

 

 


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