第115話
俺は、突っ込んでくる相手に向けて構えを取ることもなく、体を脱力したまま迎え撃つことにする。
「――えっ!?」
すると、一瞬の間を置き宮原が声をあげ――、間を置くと同時に竜道寺が畳の上に落ちる。
「ぐううう……。――な、何を……した……?」
「かなり手加減をしたはずだが、俺の動作を見切ることも出来なかったのか?」
竜道寺が、組み合おうとしてきた瞬間に俺は、体を脱力させたまま、相手の勢いを利用して、そのまま投げたに過ぎない。
その速度は、普通の人間にも見切れる程度のはずだったが、20メートル近くの距離を空けて見ていた宮原の目には分からなかったらしい。
「なん……だと……?」
竜道寺が、苛立ちを募らせ、声色にも怒りを滲ませながら、壁まで走ると木刀を掴む。
「竜道寺君! やめなさい!」
竜道寺を止めようと宮原が焦り大声を出すが、頭に血が昇っているのか、馬の耳に念仏なのか、竜道寺は木刀を右手に持ち俺に向かってくる。
「やれやれ」
戦闘中に、我を忘れるとはな――。
「少しだけ本気で相手をしてやろう」
振り下ろされた木刀を目の前にしながら、俺は身体強化を行ったまま、デコピンを竜道寺に向けて放つ。
身体強化された俺のデコピンは、大気を撃ち――、指弾として空気弾として上段から竜道寺が振り下ろしてきた木刀を粉砕――、さらに竜道寺の身体を衝撃波で吹き飛ばす。
それどころか、周囲の畳も空中に舞い上がる。
「まぁ、こんなもんだろ。かなり手加減をしたが――」
「竜道寺君!? だ、大丈夫なの?」
宮原が慌てた様子で、道場の端まで吹き飛びコンクリートの壁に貼り付けてあった板材へ激突した竜道寺に駆け寄ると声をかけている。
「やれやれ――」
俺は後頭部を掻きながら、竜道寺に近寄る。
「退いてくれ。治療をする。あと、人間は、この程度は死んだりはしない。肋骨が数本折れて、頭蓋骨が陥没して意識不明になった程度で大げさだ」
俺は竜道寺の身体に触れながら、体を修復していく。
「――さて、治療は済んだな」
「そ、そう……」
ホッとしたような表情を見せたあと、宮原は俺を見上げてくる。
「桂木君。貴方、さっき『少しだけ本気で相手してやろう』って言っていたわよね?」
「そんなこと言ったか? 記憶にないな」
「いいえ。たしかに聞いたわ。それに――」
宮原が、道場内を見渡す。
「貴方が立っていた場所を中心として畳が捲れ上がっているけど、何をしたの?」
「何をって……、ただのデコピンだな」
「でこ……デコピンって……」
「俺がデコピンをする姿を見ていただろう?」
「見ていたけど……。――でも……」
理解が追い付いていないのか宮原は混乱しているようで――。
「桂木君。その力も、治癒能力を手に入れた時に得たモノなのですか?」
話しに割って入ってきたのは神谷。
ここで異世界で修行した結果、得たものだと言っても混乱するばかりだろう。
それなら適当に話を合わせておいた方がいいか。
「そうだな。気が付いたら手に入れていたみたいな?」
「そういうことですか。それなら、納得です。宮原警視監、桂木優斗君には護身術は必要ないかと思います。おそらく彼の力は、神社庁がスカウトする人材だと過程しますと、人知の及ぶ範囲ではないかと」
「……わかったわ。桂木優斗君」
「ん?」
「貴方の武術の訓練は免除するわ」
「それは助かる」
――さて、穏便に話は済んだな。
あとの問題は、勉強か……、気が重いな。
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