第104話

「なるほど……」


 俺は静かに呟くと同時に周囲を確認する。

 時刻は、すでに18時を過ぎていて、大通りから逸れた公園という事もあり周囲には人の気配は感じない。


「分かってくれたかな?」

「ああ、分かった」


 とりあえず殺すか――。

 殺したあとに、残ったたんぱく質を増幅した生体電流で灰にしてから気流を操り、周囲に拡散すれば問題ないな。


「ところで一つ教えてほしい」

「何かな?」

「俺のことを重要視し調べているのは千葉県警だけなのか?」

「そうだ。正確には千葉県警察という形になる」

「なるほどな」


 俺は、スマートフォンを起動して、千葉県警察を調べる。

 似たような名前を3か所確認。

 つまり――、3か所を消し飛ばせば俺を調査する組織は全部消せるということか。

 特に問題ないな。

 異世界でも俺の敵に回った闇ギルドを壊滅させたのと同じだ。


「なっ!? ――ッ!」


 俺の目を見た瞬間――、館浦が、唐突に体を硬直させると共に、俺から距離を取る。

 いい反応だ。

 だが――、遅い。

 身体強化を行うと同時に、指先を手刀の構えにし――、館浦の胸元を貫くために距離を詰めたところで――。


「優斗!」


 都の声が聞こえた所で、俺は殺気を霧散させると共に都の方へと視線を向ける。


「もう! こんなところにいたの! お店の人が、荷物が邪魔だって!」

「付いてきたのか」

「うん! お店の人が困っていたよ? それより、話は終わったの?」


 都が、そう言いかけたところで、館浦が膝から崩れ落ちる。

 

「ハァハァハァ……」


 自身の胸元を掴みながら何度も浅い呼吸を繰り返す館浦。

 そんな男を見て心配になったのだろう、館浦に都が駆け寄る。


「大丈夫ですか?」

「う……っ」


 館浦は俺の殺気に身体が恐怖を覚えたのだろう。

 過呼吸気味の館浦が、苦悶の表情を浮かべながら地面の上へと倒れる。


「優斗、大変! 何か病気かも!」

「そうだな」

「どうしよう? 荷物も退かさないといけないし、倒れた人も――、私! 救急車呼ぶね!」


 都が携帯電話で救急車の手配をしているのを見ながら俺は溜息をつく。

 思わず微細ながらも殺気が漏れてしまった。

 理由は、簡単だ。

 人を殺すことに少しだけ躊躇を覚えたから。

 まったく、俺らしくもない。

 しばらくしてから救急車が到着する。

 救急隊員の相手は都が行い、俺はそれを眺めながら、これからどうするか? と、考えてしまう。

 少なくとも、都が接した館浦を始末するという手段は取れなくなった。

 何せ、救急車を呼ぶという関わり方をしたのなら記憶に残るはずだからだ。


「まったく……」

「優斗、どうしたの?」

「――いや、何でもない。それよりも救急隊員の方との会話は終わったんだな」

「うん。館浦って名前みたい」「

「そうか」

「優斗、知り合いじゃなかったの?」

「まぁ、とりあえずは知り合いってところだな」


 しばらくして警察が来て、その場で倒れていた館浦に関して聞かれるが、俺は突然、倒れたとだけ答えておく。

 警察も、俺の説明を信じてくれたのかすぐに開放してくれた。


 集まっていた野次馬を無視し、俺と都は大型スーパー入口へと向かうが、その間――、これからの対処方法について考える。

 さっきは都に、俺のことを聞き出すと言われた時に、一瞬――、気が立ってしまっ       たが、今考えると、短絡的な行動であったと言わざるを得ない。

 都と一緒に大通りに出たところで――、見知らぬ女と擦れ違う。


「これは……」


 俺は擦れ違う際に胸元に渡された名刺を確認する。

 それは千葉県警察の名刺。

 そして名刺には、待ち合わせの時間と待ち合わせ場所が書き込まれていた。




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