第73話
「うーん」
俺が同意した事に何となくだが、納得していないように見える。
「何かあるのか?」
「何だか……優斗らしくないって思うの」
「そ、そうか……?」
「うん。最近の優斗って、我が道を行くって感じだよね? それなのに、自分の言動を正そうと、生徒会というよりも山城先輩の思想を押し付けられているのに、それに対して納得するような素振りはおかしいと思うの」
へんなところで鋭いな!
「都、よく聞け」
「うん?」
「別に俺は、コイツの事を何とも思っていないし、コイツの意見を聞こうなんていう気持ちは一切ない! ただ、コイツが生徒会の考えを押し付けてきているだけだ。だから、その事に関してだけ同意しただけで、俺は従うなんてことは一度たりとも確約はしていない」
「あ……そういうことなのね」
「ええ。本当に困っているのよね。桂木君ったら、少なくないお金を渡して滞在してまで彼の生活態度を改善しようとしているのに」
「え?」
ギギギッと、壊れた機械のように俺へと視線を向けてくる都。
「優斗?」
「――な、なんだ?」
「いま、山城先輩が言ったことって、どういうことなのかな?」
「どういう事って……」
「いま、滞在って聞こえたけど?」
「神楽坂さん。今、私は桂木君の家に滞在させてもらっているのよね」
「どういうことなの! 優斗!」
「誤解だ! 勘違いだ! コイツから、お金を貰ったから、手伝っているだけだ! だから、コイツが俺の家に泊まっていても何の問題もない!」
「問題は大有りだよっ! 私だって! 優斗の家で寝泊まりしたいのを我慢しているのに! 始めてを、こんな人に奪われるなんて!」
「こんな人……」
都が、俺の襟を持ち前後に揺さぶりながら、激怒しつつ叫ぶ。
そんな俺達から少し距離が離れて、こちらへと視線を向けてきている山城綾子は、都が叫んだ『こんな人』という言葉を一人呟いている。
「わ、わかった! わかったから!」
「何が、どう分かったの?」
「都も、俺の家に泊まればいい。妹がいるし、それでいいだろ」
さすがに、クライアントから既に100万円もらっているし、神社庁の方からも頼まれてしまっているから、一方的に何か反故にされない限りは依頼を破棄するのはよくないだろう。
だったら、都を家に泊まらせて身の潔白を証明した方がいい。
「――え? ……い、いいの?」
唐突に、俺の襟から手を離した都は、上目遣いで、さらに頬を赤らめながら確認するかのように語り掛けてくる。
「ああ。もちろんだ。それで、都が納得するのなら。まぁ、男の家に来るのが嫌なら、別に無理にとは言わないが……」
「行く! 絶対にいく!」
「――そ、そうか……」
何か知らないが思ったよりも食い気味に体を寄せてくる都。
「それじゃ、私、用意するから!」
都は携帯電話を取り出すと、どこかに電話する。
そして――、しばらくするとタクシーが病院の敷地内に入ってくる。
「優斗! 私、仕度していくから、先に帰るね!」
「お、おう……」
タクシーは都を乗せて、走り去る。
「優斗君。神楽坂さんは、ずいぶんと行動的なのね」
「まぁ、たぶんだが――、綾子がいるのも大きいと思う」
「どういうことかしら?」
「ほら。男の家に、妹が居たとしても女性がいるのは? って、思ったんじゃないのか?」
「へー」
「何か?」
「ううん。優斗君って、自分のことになると本当に鈍感なんだなって感心しただけ」
「明らかに馬鹿にしているだろ」
「そうね」
山城綾子は、薄っすらと笑みを浮かべると病院の中へと入っていく。
その後ろ姿を見たあと、俺も彼女を追うようにして病院の中へと足を踏み入れた。
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