第67話
「お兄ちゃん?」
「俺は、お前のお兄ちゃんであって、旦那でも夫でも無いからな」
俺の言葉に無言になる妹。
「えへへ。少し、イラッてきたの。だって、寝てたから……」
「なるほど。まぁ、寝ている途中で起こされたら、ムカつくことはあるよな」
「うん。それじゃ、私、もう寝るから」
自室に戻ってドアを閉める妹。
「優斗君」
「何だ? 綾子」
「優斗君の妹さんって、優斗君のことをすごく大事に思っているわよね?」
「まぁ、たしかに……。妹の友達からは、ブラコンだと言われたことがあった」
「ブラコンって?」
「兄を好きみたいな? だと、思ったが……」
「それって異性としてなの?」
「まさか! そんなことがある訳がないだろ?」
「そ、そう……。――あ! それよりも、尋ねてきた人の対応とか良かったの?」
「そうだな……」
何も無いのに夜に自宅に訪問するような事は、相手も国の組織である以上しないだろう。
そうなると、何かしら問題が起きたに違いない。
「綾子」
「――ッ! な、何かしら? 優斗君」
「何で顔が赤いんだ」
「何だか、あれよね? 名前で、呼ばれることはよくあるけど……、とりあえず服を着た方がいいのではなくて?」
「ああ、たしかにな」
すぐに自室に戻り服を着て廊下に出ると、壁に背中を預けている山城綾子の姿があった。
「男の子は、着替えるのは早いのね」
「そうだな。とりあえず、外で待っているようだから行って来る。もし妹が何か聞いてきたら適当にはぐらかしておいてくれ」
「わかったわ」
「すまないな。護衛対象に、頼んでしまって」
「いいわよ、別に――。それよりも、さっきの話、忘れないでね」
「もちろんだ」
靴を履き家から出る。
そして階段を降りて1階に到着したところで――。
「桂木優斗殿。さっきは、取り乱してしまってごめんなさいね」
住良木鏡花の方から謝罪をしてきた。
「いや、こちらもタオル一枚だったからな、気にしないでくれ」
「――そ、その……」
チラッと、俺の股間を見てくる住良木。
「……もう大丈夫なの?」
「どこを見て言っているんだ……。ま、まぁ、とりあえず、もう大丈夫だ。だが――、男にとってはマジで急所だから、止めてくれ」
男の股間は急所。
それは俺であっても代わりはない。
痛覚遮断せずに喰らえば、しばらくは動けなくなるのは当然。
「わ、わかったわ……」
「何故に、笑みを見せるのか聞きたいことはあるが、それで俺に何の用だ?」
俺の言葉に真剣な表情になる住良木。
「桂木優斗殿」
「優斗でいい」
「――では、優斗殿。先ほど、神社庁の方から派遣した手練れの霊能力者が4人とも同時に戦闘不能になったと報告が上がってきました」
「手練れ? あの倒れていた奴らのことか?」
「ええ。優斗殿が、意識を失って倒れていた組織の人間を介抱して下ったそうですが……」
「介抱したというか、コンビニに行こうと外に出たら倒れているのを偶然に発見しただけだからな」
「偶然ですか……」
「ああ、偶然だ」
俺は即答する。
「……何かを感じて外に出たとかではありませんか?」
「俺に何を期待しているのか知らないが、俺は何もしらないし、何の力もないぞ? 少なくとも、俺は一般人だ」
「はぁー。普通の人は、私達のような人間と関わることを普通は避けるのですが……」
「そうなのか? 俺は特に気にしたことはないな。ライトノベルでも、よくあるだろ? 変な組織があるとか……。それに神社庁は実態として存在する組織だろ? だったら、特に変な対応をするような事はしないと思うが?」
「そうですか……。それで、山城綾子さんには、何かありましたか?」
「いや、特に何もないな」
特に嘘はついていない。
まぁ、俺は異世界で『冒険者ギルド』や、『魔術師協会』や、『精霊教会』など、多くの組織と関わりがあったからな。
あとは『スライム協会』という意味が分からない協会もあったし、それと比べたら神社庁なんて遥かにマシな部類だ。
気にする方がおかしい。
「分かりました。何も無ければいいのです。優斗殿は、強い霊力を持っていることは、私どもの方でも確認が出来ていますが、それはとても不安定だと思っています。普段は、まったく霊力を感じませんので、危険なことや、場所にはなるべく近づかないようにお願いします。今回、山城綾子さんを護衛していたのは、神社庁の中でも特Aクラスの霊能力者達で、一人でも通常の悪霊なら浄化できるほどの力の持ち主です」
「そうなのか……」
「はい。今回は、判明している限りでは社の主が起している神厄の可能性が高いため、神社庁の方は本腰を入れて対処する事が決定しました」
そこで住良木鏡花は、俺が黒い塊を倒した場所へと視線を向ける。
「しかも、今回は、相当な大物も山城綾子さんを狙っているようです」
「そうなのか?」
「はい。おそらくは神厄を起こしている神と敵対する何かしらの化物が居ると推測できます」
「化け物か……」
「優斗殿は、強い霊力を御持ちだと思いますが、霊力の扱いにかけては素人。ですから分からないと思いますが、あそこを見てください」
やはりというか、住良木が指を指した場所は、俺が黒い塊を倒した場所。
「あそこには神が利用する神使が消滅した残滓が残っています。これは、かなり危険なことです。神使を倒せるなんて、同等以上か、それか神話クラスの神クラスの力が無いと不可能です。神社庁が総力を結集しても封印できるかどうか……。ですから、優斗殿は、なるべく私達の庇護下に居てください。完全に守り切れるとは思えませんが……」
「そうか。大変なんだな。分かった」
俺の返答にホッとした表情を見せる住良木。
「――で、山王高等学校の前に存在した社について何か詳しい事は分かったのか?」
「いえ。それは、まだ照会中ですが……、かなり強い土地神だったという文献が出てきたそうです」
「強い土地神ね……」
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