第55話

 日向駅に着いた所で――、


「優斗、結構、暗くなっちゃたね」

「――いや、都が、ずっと腕を組んでいたからだろ」


 学校を出てから、都が腕を組んできていたから歩き難いこと、この上なかった。

 理由は、ハッキリとしているので、都には、そのことをキチンと伝えておく。


「えー! 彼氏彼女の仲なのに?」

「流れからそうなっているだけだろうに」


 俺は溜息をつきながら財布を取り出し、改札口を抜ける。


「優斗のいけず……」


 頬を膨らませながら、続いて改札を通る都。


「そういえば優斗」

「うん?」

「お父さんが、昨日は早く帰ってきたんだけど……。優斗が、彼氏になったことを伝えておいた!」

「まじで?」

「うん!」


 俺は額に手を当てる。

 そもそも都は守る対象であって、彼氏彼女になるのはご法度。

 なのに、母親だけでなく都の父親にまで知られるとは……。


「それで、お父さんが優斗に会いたいって言っていたの」

「だよな……」


 とりあえず、都の父親には、俺と都が付き合っていることは、間違いですとキチンと伝えないと駄目だな。

 まったく厄介なこと、この上ない。

 しばらくすると、いつもは静かな日向駅に――、ホームに電車が到着するアナウンスが流れた。


「おーい!」

「――ん? 純也か?」


 電車が入ってくると同時にホームに駆け込んでくる純也。


「もう部活は終わったのか?」

「――いや、校内放送と、あとは優斗の様子が何時もと違って変だったから。お前が、校庭を通って校門に向かう後ろ姿を見た時に部活を切り上げて追いかけてきたんだ」

「なるほど……」

「あっ! 電車きたよ! 二人とも乗らないと!」


 電車に乗ったあとは、3人椅子に座る。


「なあ、ところで何の呼び出しだったんだ? 何か金木先生から言われたのか?」

「――いや。理事長から呼び出しだった。生徒会長は、理事長の娘さんだったらしいから、倒れていたのを運んだ礼を言われただけだな。あとは、何か変なことをしなかったのか? とも聞かれた」

「まぁ、山城綾子先輩は、校内で有名な美少女だからな」

「俺は、そういうことはしないからな」

「分かっているって!」


 俺の肩を軽く叩いてくる純也。


「優斗! 目の前にも美少女がいますよ?」


 目をキラキラさせて話しかけてくる都。

 それに対して、俺と純也は顔を合わせて溜息をついた。




 ――翌朝。


「お兄ちゃん! 朝ですよ!」


 胡桃が、俺の布団の中から顔を出して話しかけてくる。

 

「どうして、ベッドの中にいるんだ?」

「それは妹だからです」

「そっか」


 妹に返答しながら学ランに着替える。


「ねえ、お兄ちゃん」

「何だ?」

「今日は、純也さんが部活の助っ人があるからって先に行っているって電話があったよ?」

「直接、俺に電話してくればいいものを」

「ほら、私! 信用されているし!」

「はいはい」

 

 俺は生返事を返しつつ、制服の上着を羽織り「先に出かける」と、家を出て神楽坂都の家へと向かう。


「おはよう、優斗」


 都は自身の自宅の前――、門前で待っていた。


「おはよう。今日は、純也は、千葉駅では待ち合わせは出来ないらしい」

「うん。聞いた」

「連絡がないのは俺だけか」

「優斗にも電話するって純也が言っていたよ?」

「そういえば……」


 俺は、制服の上着ポケットからスマートフォンを取り出す。

 もちろん着信履歴は、純也からのだ。

 それも10件と……、まあ俺がマナーモードにしていたから気が付かなかっただけか……。


「たしかに連絡はきているな」

「でしょ! 優斗ったら、全然! 電話にでない! って、純也が呆れていたよ?」

「しかたないだろ」


 異世界ではスマートフォンなんて電波が届かなかったし、そもそも通信魔法すら存在していなかったからな。

 まぁ、女神などは神託みたいな感じで信者に自分の言葉を届けていたが。


「そうね。優斗は、携帯を携帯しないものね」

「上手い事を言ったつもりかは知らないが、腕を絡めるな」

「えーっ」


 一応、見た目は美少女な幼馴染。

 第三者から腕を組んで歩いているところを見られたら誤解を受けることは必至。

 

「なんか優斗、昨日から、私や純也と距離を置いている気がするよ~」

「気のせいだ」

「うー」


 何か知らないが捨てられた仔犬のような上目遣いで俺を見てくる都に溜息をつきつつ、彼女の前を歩きだす。

 観念したのか都は、小走りで俺の横に並ぶと俺を見てくる。


「そういえば、今日も呼び出されたりしてー」

「それはないな」

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