第54話
「山城理事長」
「何かな?」
「まずは、少し距離を置くのもいいかと思いますが……」
「どういうことかな?」
仕方なく、俺は助け船を出す事にする。
「自分の友達が、山王高校が立っている土地は、もともと神社があったと噂していました。もしかしたら、そのことに何か関係などがあるのでは? 俺は、そのような事には興味はありませんが、何か、そういうことを考えてしまうと心身に影響が出るというのは、心霊番組でやっていましたし」
「うむ……だがな……」
煮え切らない態度。
「風邪は気の持ちようとも言います」
「ふむ」
俺の言葉に考え込む理事長。
それと――、何故か俺の方を睨んでくる山城綾子生徒会長。
自身の発言が否定されて苛立つのは分かるが、あのままだと、どっちにしても話し合いにはならなかった。
それなら、違う方向から話しを持っていくのが最善だろうに。
「君は娘の発言を信じているのか?」
「信じているも何も真っ向から否定するのは、違うような気がしますから」
「そうか……それと桂木君」
「何でしょうか?」
「ここ千葉県立山王高等高校が建築される前は神社があったらしい。噂も出鱈目と切り捨てることはできないな……」
困ったような表情の理事長。
「そうですか……。よく、お墓の後に建造物を建てると問題が起きることがあるとオカルト系のネット記事で読んだことがありますが……、それと同じなのでは?」
「どういうことだ?」
「普通、神社仏閣が立っていた場所には、学校などの建造物は建てないですよね? そういうことが何か問題になっているのではと……?」
「ふむ……。だが――、きちんと祭事を行って裏山の中腹に祠を建てて奉っているが……」「そうですか」
俺は、理事長の言葉に頷くきながら考える。
山城綾子が裏山に向かって歩いていったのを見ていたので、何かしら手違いがあったのでは? と、内心では思ってしまう。
だが、これ以上は、俺が口に出す領分ではない。
あくまでも、俺の立ち位置は理事長の娘を保健室まで連れていった一学生に過ぎないのだから。
「まぁ、神社に関しては問題ないと思う。それに、先祖代々付き合いのある神主には何度かお祓いはしてもらっているからな」
「山城さんの言葉を信じてですか?」
「そのように思ってくれればいい」
なるほど……。
一応は自分の娘を安心させる為に、お祓いをしてもらっているということか。
「分かりました。でしゃばってしまい申し訳ありません」
「いや。桂木君も、娘のためを思って話をしてくれたのだろう? なら気にはしないくれ」
「あの、桂木君」
話しも一区切りついた所で山城綾子が話しかけてきた。
「何でしょうか?」
「桂木君は――、ううん。何でもないわ」
「そうですか」
何か聞きたい素振りを彼女は見せたが、何も聞くつもりがないなら別にいいか。
俺はソファーから立ち上がる。
「それでは、自分は失礼します」
「うむ。すまなかったな。呼び出してしまって」
「気にしないでください」
そう理事長に声をかけたあと、俺は理事長室から退出する。
そして、その足で教室に向かう。
「優斗、遅い!」
「すまない。待たせた」
「ううん、大丈夫。それよりも優斗」
「――ん?」
「やっぱり山城先輩の件だったの?」
「ああ。倒れた経緯を、もう一度聞かれた」
「そうなのね」
頷く都。
都と合流し校舎を出たころには、すでに日は落ちかけていた。
「まだ日が沈むのが早いな」
「そうね」
同意してくる都は、俺と腕を掴んでくる。
二人して校門を出ようとしたところでスーツを着た一人の女性とすれ違う。
年齢は20代後半。
髪の色は、ブラウン色であり日本人離れしたメリハリのあるボディラインをしている。
ただし表情はサングラスをしていて完全には視認する事はできなかった。
坂道を降りていくと、一台の白いGT-Rが停まっているのが見える。
もしかしたら、さっきすれ違った女性の物かも知れない。
「優斗?」
「どうかしたのか? 都」
「今の女性のこと、じっと見ていたよね?」
「気のせいだろ」
「絶対していたもん! ああいう人が優斗は好みなの?」
「そんなことないから」
「それじゃ、私が好みなの?」
「それと今は関係ないと思うが……」
「関係はおおありなの!」
都は、一遍して不機嫌。
うちの妹といい、都といい、どうして女性という生き物は、こうも感情に起伏があるのか……。
俺は溜息をつきながら、視線だけを車へと向ける
どうしたものか。
雰囲気からして、さっきすれ違った女性は公務員とか、そういう職の人間ではない。
少なくとも、周りを常に警戒していた素振りからして面倒ごとに巻き込まれるような事に普段から遭遇しているというのが分かった。
「どうしたものかな」
「何が? 優斗! どうしたものかって、さっきの女の人のことなの?」
「何度も言うが違うからな。はぁ……、本当に、どうしたものなのか……」
怒りながらも、頑なに腕組を外そうとしない都に、俺は女心というのは、理解するのは難しいものだなと心の中で呟く。
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